ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「あれ、なんだか片付けられてる……?」

 両親の寝室を覗いてみると、がらんとまではいかないが、いくらかさっぱりとしていた。

「身内の人が、ちょこちょこ整理しに来てくれているのかもね。ナツたちが亡くなってからもう数ヶ月は経つし、この家に誰も住む予定がないなら、他人に貸すとか売るとかするのかもしれない」

 まざまざと見せつけられる、家族の死。思い出の場所はもう、あたり前には存在しなくなる。

「ねえハルくん」

 ならば今しかない。そう思ったら、わたしはハルくんにこんなお願いごとをしていた。

「最後の日、わたしこの町を散策したい」
「散策?」
「わたしね、生まれてからずっとこの町で育ってきたの。楽しい時も辛い時も、いつもこの町の風景を眺めてた。だから最後、この町にもさようならを言いたいの」

 小さな家具がひとつなくなっただけでもこんな寂しい気分になってしまうのだから、大好きな町とも人とも別れる時は、もっと寂しくなるのだろう。

 だけどこれが、わたしの運命。受け入れるしかない。

 もちろん、と賛成してくれたハルくんは、すっと立てた小指をわたしに差し出した。

「七月六日、ナツが旅立つその日は最高の思い出を作ろう。そして、ナツを約束の場所まで連れて行く」

 彼の言う「約束の場所」とは、おそらく丘の上公園のこと。

 いつか絶対連れてって。
 うん。絶対連れてく。

 あんなにもささいな約束ごとを覚えていてくれたハルくんにきゅんとなる。この人を好きになってよかったと、心からそう思える。

「ありがとう、ハルくん」

 触れ合ったふたつの小指。ゆっくり曲げた。

 七月六日。
 残りわずかになった「明日」のストックがとうとうゼロになるその日は、こんなにも大好きなハルくんとの恋が終わる日。
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