ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

文字の大きさ
上 下
100 / 120

いま56

しおりを挟む
 雨の日は、わたしの家やハルくんの家で過ごすこともあった。

「よ、また会えたなっ。ハングリートリオ全巻くん」

 わたしの部屋に入るやいなや本棚へ向けてそう挨拶をしたハルくんに、わたしは大爆笑。

「もうっ。ハルくんってば笑わせないでよっ。前にうちへ来た時も、なにかを「くん」付けで呼んでなかったっけ?」
「ああ、あれだろ?北斗くん」
「そうそう、北斗七星の北斗くん」
「北斗くんは元気してる?」
「あはは。だからなに、北斗くんって」

 ハルくんがうちへ初めて来た日も、そういえば雨だった。室内干しでリビングは使えないし、空気の読めないお母さんは乱入してくるしで、いい思い出ばかりじゃないけれど、絶対忘れたくない一日になったことはたしかだ。

 床に座り、ぱらぱらと漫画本をめくっているハルくんを見て、わたしはふとあることを思い出す。

「そういえばもうすぐ完結するね、ハングリートリオ」

 何年も集め続けてきた愛読書。その結末を見られずに、わたしはこの世を去らねばならない。
 うん、と頷いたハルくんは、寂しそう。

「九月で完結だって」
「そっか九月なんだ。悔しいなあっ。今月だったらよかったのに」

 ほんの少しがあいて、ハルくんが小さく言う。

「じゃあ九月まで、いる……?」

 いたい。そう思ったけれど、わたしはすぐさま首を振った。

「ううん、いない。帰る日を引き延ばしたって、名残惜しい気持ちが消えるわけじゃないから」

 むしろ引き延ばせば引き延ばすほど、ハルくんとの別れが辛くなると、そう思った。

 パタンと本を閉じたハルくんは、捨てられた子犬のような目でわたしを見た。けれど彼はわたしの気持ちも理解してくれているから──

「そうだね。ナツの誕生日は、ちゃんと家族揃って過ごさないとね」

 と、無理に笑ってくれたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】アマゴイ《甘恋》聖女の涙は本物でした

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 キラレイ王国では、雨乞い聖女によって干ばつを防いでおり、聖女だと王太子と婚約したレインルナだったが、雨が降らないからと婚約破棄された。  悲しみにくれるレインルナは、悲しみにくれるのだった。そして雨が降る――。

優しいユメと君に微睡む。

ひまわり
BL
少し前から俺はユメを見る。 毎日同じ夢。 でも、普通の夢よりもずっと体の自由が利く。 歩こうとすれば歩けた。 風の匂いも、草木の揺れる音も。 夢のはずなのにまるで現実のようだった。 ただ、それが夢なんだってわかるのはいつもその夢から覚めると俺はベッドの中にいるから。 そんな不思議な夢の中で俺は、一人の少年と出会う。 これは、その少年と俺の、夢をきっかけに始まる恋のはなし。 ●注意事項 急性骨髄性白血病(AML)についてのことが少し出てきます。 しかし、作者はこの病気についての知識は基本しかありません。 なので、少し「?」となるところがあるかもしれませんが、生温かい目で見てくださると嬉しいです。 表紙はトワツギ(@towathugi)さんのフリーイラストを白黒にして使用しています。 こちらの作品はエブリスタの方で完結済み作品になります。 そのため、更新は毎日3ページずつ行います。 追加要素などないので、もし先を読みたい方はエブリスタな方で閲覧してください。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

原田くんの赤信号

華子
児童書・童話
瑠夏のクラスメイトで、お調子者の原田くん。彼は少し、変わっている。 一ヶ月も先のバレンタインデーは「俺と遊ぼう」と瑠夏を誘うのに、瑠夏のことはべつに好きではないと言う。 瑠夏が好きな人にチョコを渡すのはダメだけれど、同じクラスの男子ならばいいと言う。 テストで赤点を取ったかと思えば、百点満点を取ってみたり。 天気予報士にも予測できない天気を見事に的中させてみたり。 やっぱり原田くんは、変わっている。 そして今日もどこか変な原田くん。 瑠夏はそんな彼に、振りまわされてばかり。 でも原田くんは、最初から変わっていたわけではなかった。そう、ある日突然変わり出したんだ。

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。 そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。 前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...