ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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 雨の日は、わたしの家やハルくんの家で過ごすこともあった。

「よ、また会えたなっ。ハングリートリオ全巻くん」

 わたしの部屋に入るやいなや本棚へ向けてそう挨拶をしたハルくんに、わたしは大爆笑。

「もうっ。ハルくんってば笑わせないでよっ。前にうちへ来た時も、なにかを「くん」付けで呼んでなかったっけ?」
「ああ、あれだろ?北斗くん」
「そうそう、北斗七星の北斗くん」
「北斗くんは元気してる?」
「あはは。だからなに、北斗くんって」

 ハルくんがうちへ初めて来た日も、そういえば雨だった。室内干しでリビングは使えないし、空気の読めないお母さんは乱入してくるしで、いい思い出ばかりじゃないけれど、絶対忘れたくない一日になったことはたしかだ。

 床に座り、ぱらぱらと漫画本をめくっているハルくんを見て、わたしはふとあることを思い出す。

「そういえばもうすぐ完結するね、ハングリートリオ」

 何年も集め続けてきた愛読書。その結末を見られずに、わたしはこの世を去らねばならない。
 うん、と頷いたハルくんは、寂しそう。

「九月で完結だって」
「そっか九月なんだ。悔しいなあっ。今月だったらよかったのに」

 ほんの少しがあいて、ハルくんが小さく言う。

「じゃあ九月まで、いる……?」

 いたい。そう思ったけれど、わたしはすぐさま首を振った。

「ううん、いない。帰る日を引き延ばしたって、名残惜しい気持ちが消えるわけじゃないから」

 むしろ引き延ばせば引き延ばすほど、ハルくんとの別れが辛くなると、そう思った。

 パタンと本を閉じたハルくんは、捨てられた子犬のような目でわたしを見た。けれど彼はわたしの気持ちも理解してくれているから──

「そうだね。ナツの誕生日は、ちゃんと家族揃って過ごさないとね」

 と、無理に笑ってくれたんだ。
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