ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「見てこれ。ここにつけてみた」

 ある日。そう言ってハルくんが見せてきたのは、学生鞄の持ち手にくくられた星形のキーホルダー。

「ナツの遺品だし、どうしたらいいのかわからなくてずっとしまってたんだけど、やっぱキーホルダーはキーホルダーらしく、責務を全うしないとなっ」

 ハルくんを想い、一生懸命作ったそれとの久しぶりの再会に、わたしの気分は上がった。

「わあっ、なんか懐かしいっ」

 手にとって見せてもらえば、最後に入れたハートのビーズが目に入り、恥ずかしくなった。

「このハートね、最後の最後まで入れようかどうしようか迷ったんだ」

 てへへと頭をかきながらそう言うと、ハルくんの目が丸くなる。

「え、これナツの手作りなの?」
「うん、そうだよ。キーホルダー自体の形も選べるし、中に入れるパーツもたくさんある中から自分で選ぶの」
「まじで?超上手じゃんっ!てっきり店に売ってるやつだと思ってた」

 すごいすごいと何度も口にしながら、まじまじとキーホルダーを見つめるハルくんの嬉しそうな顔は、こんなものでよかったのだろうかと思い詰めていた二ヶ月前の自分に見せてあげたいと思った。

「ハルくん、誕生日おめでとう」

 急にそう言いたくなったのは、言えなかったから。

「そのキーホルダー、ただのお土産に見えるけど、実は誕生日プレゼントなの。直接渡したかったけど、渡せなくてごめんね」

 悲しくなるのはまだ早い。だから泣きたくなんかない。
 だけどふたりの間には、しんみりとした空気が漂った。

「ありがとう、ナツ。なんだかこのキーホルダー、俺とナツみたいだねっ」

 そんな空気を打破してくれたのは、ぐいんと口角を上げたハルくん。この場がしんみりとした雰囲気にのまれないよう、努めてくれているのが伝わった。
 
「星好きのナツと、海好きな俺。ふたりがひとつになってるみたい」

 その言葉で、ザザンと鼓動が波を打つ。
 わたしが感じていたことと、全く同じことを感じてくれた愛しい人。大袈裟だけど、運命に思えた。

「ハルくん好き」

 早口でそう言うと、ハルくんが「え」と固まっていた。

「ハルくん好き、大好き」
「ちょ、ちょっと待てナツ、不意打ちすぎるっ」
「ハルくんがすっごく好き!」
「うわ、だからずるいってばっ」

 も~と抱きついてきたハルくんは、赤面した顔を隠すようにわたしのうなじに埋めていた。

 くすぐったくて、ドキドキして、また「好き」と言ってしまうのはわたし。すぐそこで、ハルくんのもどかしさが伝わってくる。

「ああ~、俺もナツに言いたいのに……」
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