ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「ナツ、ここの席あいてるよ。座っちゃいなよ」

 こそっとハルくんに耳打ちをされたのは、Bシネマを訪れた時のこと。
 お客さんがあまりいない方が、姿の見えないわたしと喋るハルくんを不思議に思う人も少ないから、やっぱり映画館は小さなところがいい。

「タダで映画観るなんて、なんだか悪いことしてる気分……」

 きちんとひとり分お会計を払ったハルくんに対し、幽霊のわたしはもちろん無料。逮捕などされるわけないのに、おどおどし出したわたしをハルくんは笑っていた。

「あははっ。ナツって意外と律儀なんだなっ」
「だ、だってここにいるみんなはちゃんとお金払ってるんだよ?わたしだけ払わないとか、そんなのいいのかな……」
「いいじゃんいいじゃん、ナツだけの特権なんだから。思いっきり利用しちゃいなよ」

 ブーと上映開始を知らせるブザーが鳴り、館内が暗くなる。わたしたちは囁き声で会話を続ける。

「ナツとこうして暗闇で並んでると、中二の時のプラネタリウム思い出すね」
「うん。わたしも今そう思ってた。ハルくんあの時、寝ちゃってたよね」
「あはは、そうそう。なんか星空眺めてたら気持ちよくなって」
「今日は寝ないでよー」
「あたり前だよ寝るわけないじゃん。これはただの校外学習じゃなくて、ナツとの大事なデートなんだから」

 ナツとの大事なデート。
 その言葉がぐるぐると頭の中エンドレスリピートして、映画の内容なんかちっとも入ってこなかった。
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