ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「ハルくん、大好き」

 好きを言えない彼の代わり、残された一ヶ月間は、わたしがたくさん言おうと思った。

「そんなに悲しい顔しないで。わたしもまだ、大好きなハルくんと一緒にいたいもん。お母さんもハルくんとの恋は応援してくれてたから、きっと許してくれるって信じてる。わたしたちの最後のわがまま」

 ね、とハルくんの手を握る。すると彼は歯がゆそうにした。

「ずるい。ナツだけ言えて」
「ハルくんはだめだよ。言った途端にきっとわたし、消えちゃうから」
「でも俺だってナツのことずっと前からっ」

 言いかけて、言わなくて。わたしはまだここにいられる。

 ハルくんは無理やり口を閉じていた。

 腕を組んで歩く帰り道。わたしたちふたりの恋する時間のカウントダウンは、もうこの瞬間から始まっている。

「また明日ね、ハルくん」
「うん、また明日」

 また明日。
 あと何回と決められたその挨拶が、ひとつ消費された。
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