ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「わかんない……」

 徐々に視界がにじんでいく。今日のわたしの涙腺は、なんだかとても弱い。

「ハルくんともっといたいっ。けどもしかしたら今この瞬間も、お母さんたちが空でわたしを探しているかもしれないって思うと、苦しくってっ」

 最後に交わした会話はなんだっけ。わたしはただの一度でも、両親に感謝を伝えたことがあっただろうか。
 また会える?もう会えない?
 それはあっち側へ行った者にしかわからない。

 つうっと頬へ伝った、一筋の涙。

「ナツ……」

 お母さんともお父さんとも、そしてハルくんともずっと一緒にいたい。そんなわがままは叶わない。

「ハルくん、どうしよう」

 ハルくんを困らせるだけとわかっていたのに、わたしは彼へ聞いてしまった。

「わたし、ハルくんも好きだしお母さんとお父さんのことも好きなの。どうしたらいい……?」

 すると涙で濡れたわたしの頬を手のひらで包んだハルくんが、こう言った。

「ベランダでナツが告白してくれた時……あの時の俺がすぐ返事をしていれば、ナツはこんなにも悩まずに、すぐ成仏できたんだよね……」

 ハルくん。わたしはハルくんが好きです。ハルくんはわたしをどう思っていますか。

 勇気を出した人生初めての告白。あの時のハルくんは、下唇を噛んで何かの言葉を飲み込んでいた。

「今こうなっているのは、ナツにその二文字をずっと言わずに引き止めてる俺のせいだ。本当にごめん」
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