ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま49

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 ハルくんに連れられて、出た校門。とぼとぼと歩みを進めている間に、思考というものが戻ってくる。

 思えばここ最近のわたしは、自宅へ帰った覚えがない。だから両親の不在にも気が付けなかった。わたしの記憶が刻まれるのはハルくんと過ごす放課後や、野球部の練習を見ている時だけ。だとすればやはり、わたしが幽霊になった理由はハルくんへ抱いたこの気持ちを伝えることと、彼から返事を聞くことだ。
 そしてそれらの目標を達成すれば、わたしは──

 ふと見上げたのは空の高いところ。ちらちらとまたたき出した星たちが、わたしを心配しているように見えた。

「ナツ……?」

 足を止めたわたしの横、ハルくんが一歩追い越し立ち止まる。

「ナツ、どうしたの……?」

 夜空から目が離せない、吸い込まれそうになる。なぜならそこには。

「お母さん、お父さん……」

 大切な、お母さんとお父さんがいるから。

「ナツ!」

 求めるように空へ手をかざそうとすれば、それはハルくんが掴んで止めた。おもむろに彼の方を振り向くと、潤んだ瞳がそこにはあった。

「帰りたいの……?」

 帰らないで。そんな言葉が後ろに隠れた台詞。

「ナツは、早くお母さんたちの元へ帰りたい……?」

 ハルくんと親。それはどちらも天秤になど乗せられない。
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