ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「ナツが無意識にこっちの世界へ戻ってこられたのは、この世に残した未練を晴らすためなんじゃないかって。それは俺へ告白をすることと、俺からの返事を聞くこと。手紙の内容を見れば痛いほどわかったよ、死ぬ前のナツが重大な決意をしていたんだって」

 ハルくんに好きって伝えて、好きって言ってもらいたい。
 だからわたしは幽霊になってまで、それを叶えにきたの?

「だから俺は返事なんかしたくなかった。だってもし俺からその言葉を聞けたら、未練がなくなったナツは天国に帰っちゃうでしょ……?」

 そんなことないと、ハルくんの推測をはっきりと否定できないのは、そうかもしれない、の気持ちの方がわたしの中で強かったから。

 わたしはきっと、ハルくんに「好き」だと言ってもらえた瞬間消えてしまう。彼の「好き」が、わたしたちの恋を終わらせてしまう。

 ハルくんの腕の中、いくらか涙はおさまった。それは落ち着いたという意味ではなく、驚きや絶望や不安など、さまざまな感情を押し付けられた心が、束の間その全てを放棄したから。

 どうしたらいいのかわからない。

 まさに放心状態だった。そんなわたしに、ハルくんは言う。

「とりあえずここだといつ先生が来てもおかしくないから、校舎を出よう」
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