ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま47

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 ハルくんの胸元でしくしく泣いていると、彼のかすれた声がした。

「俺もね、最初は信じられなかったよ」

 泣いているのに優しい声。こんなのハルくんにしか出せないだろう。

「部活中、打ったボールがたまたま三年五組のベランダに落ちた時、そこに死んじゃったはずのナツがいるんだもん。超驚いた、夢かと思った、幻だと思った。だけど会話もできるしナツにれてみればちゃんとさわれたから、これは現実に起きた奇跡なんだと思った」

 ナツ、手ぇ出して。
 手?
 うん、ナツの手。触っていい?

 不思議に思ったあの時の握手。ハルくんはあの時からわたしの正体に気が付いていたのに怖がりもせず、ずっとわたしと向き合ってくれていた。

 黙ったままでいると、ハルくんが続きを話す。

「けど、ナツ自身が幽霊なんだって自覚がないって知った時は、正直どうしたらいいのかわからなくなった。本当のことを言うべきか言わないべきか、すっごく迷った。だって辛いじゃん、そんなの。ナツは自分が生きているって思ってるのに」

 わたしは今の今まで、自分はこの世に存在する人間だと思い込んでいた。ハルくんの気持ちなど知らずに、自分は生きているのだと、そう勘違いしていた。そんなわたしに「君はもう死んでいるよ」だなんて告げるのには、相当な度胸がいるだろう。

「あと俺、あることに気付いちゃったんだ」

 わたしがごくんと唾を飲んだのは、ハルくんの声色こわいろが少し変わったから。
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