ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま46

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 真っ白になった頭はしばらく使いものにならず、ただただ呆然と、目の前のハルくんだけを眺めていた。
 ふと全身から力が抜けていく。その場にぺたんと座りこんだわたしを追いかけるように、ハルくんも腰を下ろしていた。

「わたしはお化けだったんだね……」

 朝の通学路、誰も返してくれなかったおはようの挨拶。

「ハルくんにしか、わたしは見えないのかな……」

 犬を連れたおじいさんが言っていた、相方なしの演劇練習。

「だからか……」

 全然見覚えのない数学の公式は、授業を受けていないから。なぜならわたしは三年生になってから、たったの一日しか学校へ行けなかったから。

「ナツっ」

 カチカチと歯を鳴らし、パニックに陥りそうになっていると、ハルくんがそれを封じ込めるように抱きしめてくれた。
 その時香ったのは彼の匂い。背中へまわされた手の感触だって、この温もりだって、ちゃんと感じてとれるのに。

「お、お母さんっ……!」

 お母さんもお父さんも、そしてわたしももういないなんて、そんなの信じたくないよ。
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