ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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 ナツ、だよね……?
 やっぱりナツだ。どうして、なんでここに……
 なんでナツはここにいるの、なにしに来たの。

 あの時のハルくんの青ざめた顔が、忘れられない。まるで幽霊でも見たかのような、真っ白な顔だった。

「この手紙は、担任から受け取ったんだ……」

 いつまでもしぶとく聞き続ければ、観念したハルくんが重い口を開いた。

「発見されたキーホルダーと同じ袋に、手紙が入ってたって言われた。そこに俺の名前があったって……ナツの親族が、おそらくナツの生前に仲良かった男の子だろうって勘付いてくれて、学校まで届けに来てくれたらしい。ナツは塾とか習い事とか通っていなかったから、同じ学校の子だとしか考えられないって」

 発見されたキーホルダー、親族、そして生前。
 ハルくんの発するワードに混乱した。

「どういう、意味……?」

 だってそんな言葉は、事件や事故、そして死を思わせるから。

 ただでさえ近くにいるハルくんへさらに一歩近付くと、ぐしゃっと歪んだ彼の瞳から涙がこぼれ落ちていた。

「ナツは、帰ってこられなかったんだよ……」

 それは一粒二粒ではなく、数えきれないほど大量に。落ちてあふれてまた落ちて。それでも彼は懸命に、わたしへ説明してくれた。

「こ、高速道路での玉突き事故に巻き込まれて、ナツは死んだ……誰かの居眠り運転だって聞いたっ。ナツのお父さんもお母さんもみんな、みんな死んだんだ……だから今俺の目の前にいるのはナツだけどナツじゃない、ナツの魂だと思うっ」

 うそのような本当の話。それとも本当のようなうその話か。
 そのふたつで一瞬気迷ったわたしだったが、すぐそこで泣きじゃくるハルくんがもう、答えそのものだと思えた。

「そっか……」

 わたしは死んだ。事故に遭って。

「そうだったんだ……」
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