ハルのてのひら、ナツのそら。

中学三年生、春の頃８

「ナツ、このままじゃ何時に帰れるかわからないから、少しでも寝ておきなさい」

　再び取り出したキーホルダーをくるくる眺めていると、横顔を見せたお母さんが言った。

「明日からしっかりと授業も始まるんでしょう？ナツも受験生になったんだから、これからは本腰入れないと」

　くるん、くるん。
　時折外のライトを反射して、暗い車内で赤く輝くお星さま。

　くるん、くるん。
　中身は海、見た目は星。海と空とが合体されたそれは、海好きなハルくんと星好きなわたしの融合だと思えた。

「そうだね、少し寝よっかな」

　お母さんの提案で、わたしは眠る準備に入る。車に普段から積んである薄手の毛布をひざにかけて瞳を閉じれば、まぶたの裏に浮かんでくるのは愛しい人。

　ハルくん、好きだよ。
　俺も好きだよ、ナツ。

　そんな幸せな夢を、見たような気がした。