ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学三年生、春の頃6

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「これ入れたら変だよね……?」

 自分ひとりでは踏ん切りがつかず、あくびをし始めたお母さんにそう聞くと、彼女は横に首を振った。

「そお?変じゃないわよ」
「で、でもわたし、恋人でもなんでもないのに……」
「大丈夫大丈夫っ。きっとハルくんって子もナツを好きだって、お母さんはあの時確信したから」

 お母さんのその自信は一体どこからきているのか、それはわからない。けれどその言葉は励ましとなり、わたしはようやくハートのビーズを取ることができた。


 その日の夜。朝早くからの運転や、結婚式の挨拶まわりで疲れきったお母さんとお父さんが、ホテルのベッドでくてんと寝た頃。デスク上のライトだけを灯したわたしは、ハルくんへの手紙を書いた。

「なんかペン先が震えちゃう……」

 春生まれのハルくんを意識して購入した、桜色のレターセット。春の風物詩である桜のイラストも散りばめられている。

「ハルくん。わたしはハルくんが……」

 書き出した途端、心がふわふわ浮いた。

「野球部の練習も試合も、いつも応援していました……」

 ハルくんの好きなところを頭に描きながら書くこの手紙は、わたしの想いがぎゅっと詰まっている。

 ハルくんが好き、大好き。

 わかったよ、もうしつこいよ。と自分に呆れるけれど、でもこれがわたしなのだから仕方ない。決戦の日はもうあさってに迫っている。勇気を出して夢を叶えたら、もうひとつの夢も叶うといいのに。

 ハルくんに好きって言ってもらいたい。

 わたしはずっと、それを願っているんだ。
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