ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学三年生、春の頃5

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「わあ、すごーい」

 入店してすぐ目に飛び込んできたのは、『世界でひとつだけのオリジナルキーホルダー』と書かれた吊り看板。その看板の下に足を進めれば、カラフルなビーズや白い砂、小石や貝がらなどが並べてあった。

「へえ、自分でチョイスしたものを、好きな型に入れていくのね」

 テーブルの上に置かれた簡単な説明書き。それを手にとったお母さんが、ふんふんと興味を持つ。

 ふと思い出すのは、プラネタリウムのお土産屋さんでのハルくんのご機嫌笑顔。あの時は貝がらの瓶ボトルにテンションが上がっていた彼だけど、それがキーホルダーになったらどうだろうか。

 世界にひとつだけのプレゼント、喜んでくれたら嬉しいな。

「お母さん、これやりたい!」

 数十種類はあるキーホルダー本体の型。わたしが迷わず手を伸ばしたのは、星の形だった。


「ちょっとナツ、いつまでやってるの?早くしないと置いていくわよ」
「ごめん、あともうちょっとっ」

 ピンセットで慎重に選んでいく、中身のひとつひとつ。小さな巻き貝を入れてハルくんを想って、ガラスビーズを入れてハルくんを想って。最高の贈りものに仕上げようと没頭していれば、お母さんたちがしびれを切らす。

「も~、『もうちょっともうちょっと』ってさっきから言ってるけど、一時間もこうしてない?大好きなハルくんのためなのはわかるけどさあ」
「ば、ばかお母さん!お父さんの前で名前出さないでよ!」
「とにかくそろそろいい加減にしなさい。本当に置いていくわよ」
「あ、あと五分っ」

 空っぽだった星形の中身はほとんど埋まり、最後の仕上げ。
 ピンク色したハートのビーズは、制作開始からすぐそこのトレーの中に見えているけれど、どうしても手が出せずにいる。
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