ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

文字の大きさ
上 下
81 / 120

中学三年生、春の頃2

しおりを挟む
 もし、千葉で購入したプレゼントをハルくんへ渡す時に好きだと伝えて、万が一オーケーをもらえたら、少し遅れた彼の誕生日会がふたりでできるだろうか、なんて考えれば今すぐにでも「好き」だと言ってしまいたくなった。

 けれど、まだ言えない。今日告白して断られてしまったら、きっと気まずくなって、プレゼントすらあげられなくなっちゃうもん。去年渡せなかった誕生日プレゼント。今年は必ずあげたいから。

「なにじっと見てんの、ナツ」

 気付けばハルくんの顔に穴があきそうなほどに眺めてしまった彼のこと。

「ご、ごめんっ!なんでもない!」
「いや、いいけどべつに。その代わり、俺も見ていい?」

 いたずらな笑みでそう言ったハルくんは頬杖をつくと、真っ直ぐわたしを見つめてきた。そんな彼を前に、視線を逸らすタイミングを見失い、わたしは金縛りにあったように動けなくなる。
 唯一動く唇で聞く。

「な、なにこの時間……」
「ナツを観察する時間」
「た、たのし?」
「うん。楽しいよ」

 ししっと笑ったハルくんは、ただおふざけを楽しんでいるだけ。わたしは彼へ対するこの気持ちを悟られまいと真顔を貼り付けるけれど、それでも勝手に熱くなるのはふたつの頬。

 照れくさいけど、まだこうしていたい。

 そう思ってしまえば、貼り付けた真顔はぺらりと剥がれ、愛しい目を向けてしまう。

「ちょ、なにそれ反則っ」

 ゲームのような見つめ合いから、先に脱却したのはハルくんだった。

「反則?」
「なに、今のナツの目っ。普段と全然違うじゃんっ」

 そっぽを向いたハルくんの、耳が真っ赤に染まっていく。

 どんな目で彼を見つめていたのか、自分ではもう確認できないけれど、好きな人を見つめていたら、相手が照れてくれた。それは嬉しいことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【ショートショート】恋愛系 涙

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
声劇用だと1分半〜5分ほど、黙読だと1分〜3分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】それは、私にお任せください

楽歩
恋愛
強面で無骨な近衛隊長のスヴェイン。彼には可憐な婚約者がいる。 スヴェインを一途に思い、全力で愛するレティシア。しかし、スヴェインは気付かない。愛する婚約者を守るため、影で暗躍するレティシアのもう一つの顔を――。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))6万字ほどの中編です。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎ネタバレ見たくない人もいるかなと思いつつタグ追加してみました。後でタグ消すかもしれません❗️ ✴︎ストック切れで更新止まっててすいません😢エタってはないです

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

処理中です...