ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま43

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「ちょ、ナツ!」

 階段の踊り場まで駆け上がり、そこでその封筒をひらく。中には封筒と同じ色をした便せんが一枚。春に咲く、桜が描かれているもの。

「返して!」

 わたしがそれを読もうとすると、必死なハルくんに掴まれた両手首。

「まじでそれ、だめだから返してっ」

 人の手紙を盗んで見るならばハルくんが正しいと思うけれど、今回は違う。
 なぜならこの手紙は、わたしがハルくんを想って書いたものだから。

「ど、どうしてハルくんがこれを持ってるの!?」

 書いたけど、渡していない。だからそう聞いた。

「わたし、ハルくんにこの手紙あげてないっ!」

 内容は、確認しなくても覚えている。この手紙を書いている時の、あのふわふわした感覚も。

 強い瞳でハルくんを見ると、手首にかけられていたハルくんの圧力が弱まった。

「ど、どうしてって、キーホルダーと一緒に入ってたから……」
「キーホルダー?キーホルダーって星形の?」
「そ、そう」
「そんなのおかしいよっ。それだってわたしまだ、ハルくんにあげてないもんっ。一体誰からもらったの?」

 今から二ヶ月前の四月、千葉で選んだハルくんへのプレゼントと、そこに添えた手紙。絶対に渡そうと心に決めていたけれど、わたしにはそれができなかった。
 ビーチ沿いの雑貨屋さん。『世界でひとつだけのオリジナルキーホルダー』と書かれた吊り看板の下、あんなに一生懸命作ったのに。

 ゆるまったハルくんの手からすり抜けた手で、今度はわたしが彼の手をとった。

「ねえハルくん答えて。どうしてわたしが渡していないものを、ハルくんが持っているのか」
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