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「ちょ、ナツ!」
階段の踊り場まで駆け上がり、そこでその封筒を開く。中には封筒と同じ色をした便せんが一枚。春に咲く、桜が描かれているもの。
「返して!」
わたしがそれを読もうとすると、必死なハルくんに掴まれた両手首。
「まじでそれ、だめだから返してっ」
人の手紙を盗んで見るならばハルくんが正しいと思うけれど、今回は違う。
なぜならこの手紙は、わたしがハルくんを想って書いたものだから。
「ど、どうしてハルくんがこれを持ってるの!?」
書いたけど、渡していない。だからそう聞いた。
「わたし、ハルくんにこの手紙あげてないっ!」
内容は、確認しなくても覚えている。この手紙を書いている時の、あのふわふわした感覚も。
強い瞳でハルくんを見ると、手首にかけられていたハルくんの圧力が弱まった。
「ど、どうしてって、キーホルダーと一緒に入ってたから……」
「キーホルダー?キーホルダーって星形の?」
「そ、そう」
「そんなのおかしいよっ。それだってわたしまだ、ハルくんにあげてないもんっ。一体誰からもらったの?」
今から二ヶ月前の四月、千葉で選んだハルくんへのプレゼントと、そこに添えた手紙。絶対に渡そうと心に決めていたけれど、わたしにはそれができなかった。
ビーチ沿いの雑貨屋さん。『世界でひとつだけのオリジナルキーホルダー』と書かれた吊り看板の下、あんなに一生懸命作ったのに。
ゆるまったハルくんの手からすり抜けた手で、今度はわたしが彼の手をとった。
「ねえハルくん答えて。どうしてわたしが渡していないものを、ハルくんが持っているのか」
階段の踊り場まで駆け上がり、そこでその封筒を開く。中には封筒と同じ色をした便せんが一枚。春に咲く、桜が描かれているもの。
「返して!」
わたしがそれを読もうとすると、必死なハルくんに掴まれた両手首。
「まじでそれ、だめだから返してっ」
人の手紙を盗んで見るならばハルくんが正しいと思うけれど、今回は違う。
なぜならこの手紙は、わたしがハルくんを想って書いたものだから。
「ど、どうしてハルくんがこれを持ってるの!?」
書いたけど、渡していない。だからそう聞いた。
「わたし、ハルくんにこの手紙あげてないっ!」
内容は、確認しなくても覚えている。この手紙を書いている時の、あのふわふわした感覚も。
強い瞳でハルくんを見ると、手首にかけられていたハルくんの圧力が弱まった。
「ど、どうしてって、キーホルダーと一緒に入ってたから……」
「キーホルダー?キーホルダーって星形の?」
「そ、そう」
「そんなのおかしいよっ。それだってわたしまだ、ハルくんにあげてないもんっ。一体誰からもらったの?」
今から二ヶ月前の四月、千葉で選んだハルくんへのプレゼントと、そこに添えた手紙。絶対に渡そうと心に決めていたけれど、わたしにはそれができなかった。
ビーチ沿いの雑貨屋さん。『世界でひとつだけのオリジナルキーホルダー』と書かれた吊り看板の下、あんなに一生懸命作ったのに。
ゆるまったハルくんの手からすり抜けた手で、今度はわたしが彼の手をとった。
「ねえハルくん答えて。どうしてわたしが渡していないものを、ハルくんが持っているのか」
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