ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま42

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 この話になると口をつぐむことの多いハルくんへ抱くのは、こんな疑問。

「もしかして、『好き』って言えない理由でもあるの……?」

 そう聞けば、再び大きく揺れた彼のふたつの瞳。

「わたしと手を繋いでくれて、抱きしめてもくれるハルくんが、『好き』だけは絶対に言えない訳がなにかあるの……?」

 まばたきもしなくなった目の前のハルくんの顔に書かれている「どうしよう」が、みるみるうちに濃くなっていく。

 とん、と一段下がった彼の手がわたしから離れて、とんっとまた一段遠ざかる。

「ご、ごめんナツ。今日はやっぱり別に帰ろうっ」

 一刻も早くこの状況から逃れたいのだと、ハルくんのそのさまから痛いほどわかった。
 苦しくなるのは胸の奥。

「なんでよハルくんっ!そんなの納得いかないよ!」
「ごめん!」
「ハルくんってば!」

 くるりと反転したハルくんは、ばいばいも言わずにこの場を去ろうとした。

「ちょっと待っ──!」

 とっさに伸ばした手でわたしが捕まえられたのは、彼の鞄の持ち手部分。そこをぐいと掴んだままでいれば、先を急ぐハルくんとわたしの間で、ファスナーの開いていた鞄の中身がひっくり返った。
 バサンと落ちたのは教科書やノート、それからペンケース。そして──

「あれ、これって……」

 見覚えのある、桜色の封筒。
 他のものには目もくれず、真っ先にその封筒を拾ったわたしに、ハルくんは飛びかかってくる。

「それはだめ!」

 思わずその封筒を背中にまわすのはわたし。取られたくないと、そう思った。
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