75 / 120
いま39
しおりを挟む
五月が終わり、六月になった。朝から降っていた雨がすっかり上がり、ベランダから見える放課後の空には虹がかかっている。
俺は、なんとも思っていない相手と手なんか繋がない。
そう言って握られた手は、嬉しかった。
俺はナツだから抱きしめたいって、そう思うんだよ。
そう言って抱きしめられたのも、嬉しかった。
だけど。
これが今の俺が言える精一杯の答え。
その意味は、わからなかった。
さんかく公園まで一緒に帰ろうと約束している今日は、部活終わりのハルくんが、三年五組のクラスまで迎えに来てくれることになっている。
「わざわざ三階まで上がって来なくても、わたしが校門まで行くよ」と言ったけれど、彼は「俺がナツのとこまで行く」と言った。
部活が終わるまであと一時間。バッドを振るハルくんは、今日も最高にカッコいい。
「ナツ、お待たせ」
制服に着替えたハルくんがクラスに迎えに来てくれた時、わたしは自分の席に座り、黒板を眺めていた。
「ナツ……?」
六月七日、日直は佐藤くんと水本さん。黒板消しで消されずに残っているのは、授業で使われた数学の公式。
「どうしよう、わたしやばいかも……」
そんなことをぼやき、両手で口元を覆ったわたしに、ハルくんは「なにが?」と聞いてきた。
「黒板に書かれてる数式、なにがなんだかわからない」
「え」
「いつの間にここまで授業進んでたんだろ、全然記憶にないや……」
俺は、なんとも思っていない相手と手なんか繋がない。
そう言って握られた手は、嬉しかった。
俺はナツだから抱きしめたいって、そう思うんだよ。
そう言って抱きしめられたのも、嬉しかった。
だけど。
これが今の俺が言える精一杯の答え。
その意味は、わからなかった。
さんかく公園まで一緒に帰ろうと約束している今日は、部活終わりのハルくんが、三年五組のクラスまで迎えに来てくれることになっている。
「わざわざ三階まで上がって来なくても、わたしが校門まで行くよ」と言ったけれど、彼は「俺がナツのとこまで行く」と言った。
部活が終わるまであと一時間。バッドを振るハルくんは、今日も最高にカッコいい。
「ナツ、お待たせ」
制服に着替えたハルくんがクラスに迎えに来てくれた時、わたしは自分の席に座り、黒板を眺めていた。
「ナツ……?」
六月七日、日直は佐藤くんと水本さん。黒板消しで消されずに残っているのは、授業で使われた数学の公式。
「どうしよう、わたしやばいかも……」
そんなことをぼやき、両手で口元を覆ったわたしに、ハルくんは「なにが?」と聞いてきた。
「黒板に書かれてる数式、なにがなんだかわからない」
「え」
「いつの間にここまで授業進んでたんだろ、全然記憶にないや……」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】アマゴイ《甘恋》聖女の涙は本物でした
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
キラレイ王国では、雨乞い聖女によって干ばつを防いでおり、聖女だと王太子と婚約したレインルナだったが、雨が降らないからと婚約破棄された。
悲しみにくれるレインルナは、悲しみにくれるのだった。そして雨が降る――。
優しいユメと君に微睡む。
ひまわり
BL
少し前から俺はユメを見る。
毎日同じ夢。
でも、普通の夢よりもずっと体の自由が利く。
歩こうとすれば歩けた。
風の匂いも、草木の揺れる音も。
夢のはずなのにまるで現実のようだった。
ただ、それが夢なんだってわかるのはいつもその夢から覚めると俺はベッドの中にいるから。
そんな不思議な夢の中で俺は、一人の少年と出会う。
これは、その少年と俺の、夢をきっかけに始まる恋のはなし。
●注意事項
急性骨髄性白血病(AML)についてのことが少し出てきます。
しかし、作者はこの病気についての知識は基本しかありません。
なので、少し「?」となるところがあるかもしれませんが、生温かい目で見てくださると嬉しいです。
表紙はトワツギ(@towathugi)さんのフリーイラストを白黒にして使用しています。
こちらの作品はエブリスタの方で完結済み作品になります。
そのため、更新は毎日3ページずつ行います。
追加要素などないので、もし先を読みたい方はエブリスタな方で閲覧してください。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

原田くんの赤信号
華子
児童書・童話
瑠夏のクラスメイトで、お調子者の原田くん。彼は少し、変わっている。
一ヶ月も先のバレンタインデーは「俺と遊ぼう」と瑠夏を誘うのに、瑠夏のことはべつに好きではないと言う。
瑠夏が好きな人にチョコを渡すのはダメだけれど、同じクラスの男子ならばいいと言う。
テストで赤点を取ったかと思えば、百点満点を取ってみたり。
天気予報士にも予測できない天気を見事に的中させてみたり。
やっぱり原田くんは、変わっている。
そして今日もどこか変な原田くん。
瑠夏はそんな彼に、振りまわされてばかり。
でも原田くんは、最初から変わっていたわけではなかった。そう、ある日突然変わり出したんだ。

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。
棗
恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。
そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。
前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる