ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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 五月が終わり、六月になった。朝から降っていた雨がすっかり上がり、ベランダから見える放課後の空には虹がかかっている。

 俺は、なんとも思っていない相手と手なんか繋がない。

 そう言って握られた手は、嬉しかった。

 俺はナツだから抱きしめたいって、そう思うんだよ。

 そう言って抱きしめられたのも、嬉しかった。
 だけど。

 これが今の俺が言える精一杯の答え。

 その意味は、わからなかった。

 さんかく公園まで一緒に帰ろうと約束している今日は、部活終わりのハルくんが、三年五組のクラスまで迎えに来てくれることになっている。
「わざわざ三階まで上がって来なくても、わたしが校門まで行くよ」と言ったけれど、彼は「俺がナツのとこまで行く」と言った。

 部活が終わるまであと一時間。バッドを振るハルくんは、今日も最高にカッコいい。


「ナツ、お待たせ」

 制服に着替えたハルくんがクラスに迎えに来てくれた時、わたしは自分の席に座り、黒板を眺めていた。

「ナツ……?」

 六月七日、日直は佐藤さとうくんと水本みずもとさん。黒板消しで消されずに残っているのは、授業で使われた数学の公式。

「どうしよう、わたしやばいかも……」

 そんなことをぼやき、両手で口元を覆ったわたしに、ハルくんは「なにが?」と聞いてきた。

「黒板に書かれてる数式、なにがなんだかわからない」
「え」
「いつの間にここまで授業進んでたんだろ、全然記憶にないや……」
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