ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学二年生、秋の頃3

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 それからほどなくしてドームに映し出されたのは、綺麗な綺麗な星の空。
 四季折々の星座の説明や、それにまつわる話がされるなか、そこらじゅうの夜空を引っかいてまわるのは流れ星。現実では見ることが難しいこの美しい光景に、わたしは心を奪われた。

「ナツが言ってた三本の流れ星って、こんな感じだった?」

 会話は禁止。それが上映中のルールだから、ハルくんはわたしのテリトリーぎりぎりまで顔を持ってきて囁く。

「前に教えてくれたナツのおばあちゃんの話。おばあちゃんが亡くなった日に、流れ星が三本、上に向かって流れていたってやつ」

 吐息がかかる、先ほどよりも近い距離。わたしがハルくんの方を向けばもう、キスだってできてしまうかもしれない。
 全身に電流が走るようなゾクゾクを抱えながら、わたしは必死に平然を保った。

「うん、こんな感じだった。実際はひとつひとつこんなに早く消えないで、三本ともしばらく夜空に残ってたけど」

 おばあちゃんの大切な人が空から迎えに来た瞬間、天高く伸びていった白い筋は、今でも鮮明に思い出せる。

「すっごく綺麗だったよ、おばあちゃんのお星さま。涙も悲しみも一瞬忘れそうになるほど、すっごく綺麗だった」

 行ってらっしゃい。

 流れ星が瞳に映っている間だけは、そんな風に思えたんだ。

 大切な人とまた逢うことができてよかったね。

 と、そう思えた。
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