70 / 120
中学二年生、秋の頃2
しおりを挟む
「つーかこれ、どうやって倒れるんだろ?」
椅子に備えられている肘掛けのレバー。そこを指でガチャガチャいじくって、ハルくんは背もたれを倒したがった。彼のそのさまを見たわたしもトライしてみると、一発で倒れた背面のシート。
「ひゃっ!びっくりしたあっ!」
体重を後ろにかけていたせいか、勢いよく平ら近くまで下がって驚いた。景色は変わり、ドームを仰いでいると、そこに満面の笑みを貼り付けたハルくんが映り込む。
「ウケるっ。今一瞬にして、ナツが隣から消えたわっ」
そう言った彼のシートもゆっくりと下りてきて、わたしと同じ高さになった。
上映前の明るい場内。横にふいと顔を向けると、わたしの方を見ていたハルくんと目が合い、きゅんとした。
並んでする仰向けは、ここがひとつのベッドの上だと錯覚させる。
「お、はじまる」
ブーッと上映開始の合図が鳴って、あたりが段々暗くなる。視界が閉ざされた場内で、聞こえてきたのはハルくんの声。
「なにも見えないね」
耳元で囁かれたその声は吐息だけ。きっと他の誰にも聞こえていない。
「うん、見えないね」
「なんかゾクゾクするね」
「うん、ゾクゾクする」
わたしの感じているこのゾクゾクは、おそらくハルくんとは違った意味合いからきているもの。
ハルくんが近い。
椅子に備えられている肘掛けのレバー。そこを指でガチャガチャいじくって、ハルくんは背もたれを倒したがった。彼のそのさまを見たわたしもトライしてみると、一発で倒れた背面のシート。
「ひゃっ!びっくりしたあっ!」
体重を後ろにかけていたせいか、勢いよく平ら近くまで下がって驚いた。景色は変わり、ドームを仰いでいると、そこに満面の笑みを貼り付けたハルくんが映り込む。
「ウケるっ。今一瞬にして、ナツが隣から消えたわっ」
そう言った彼のシートもゆっくりと下りてきて、わたしと同じ高さになった。
上映前の明るい場内。横にふいと顔を向けると、わたしの方を見ていたハルくんと目が合い、きゅんとした。
並んでする仰向けは、ここがひとつのベッドの上だと錯覚させる。
「お、はじまる」
ブーッと上映開始の合図が鳴って、あたりが段々暗くなる。視界が閉ざされた場内で、聞こえてきたのはハルくんの声。
「なにも見えないね」
耳元で囁かれたその声は吐息だけ。きっと他の誰にも聞こえていない。
「うん、見えないね」
「なんかゾクゾクするね」
「うん、ゾクゾクする」
わたしの感じているこのゾクゾクは、おそらくハルくんとは違った意味合いからきているもの。
ハルくんが近い。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?
青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。
エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・
エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・
※異世界、ゆるふわ設定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる