ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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 真っ直ぐ交わり続ける視線を痛く思うほど、ハルくんは何も言わないまま黙っているだけ。けれど時折かすかに動く彼の唇が、言葉を選んでいるようにも見えた。

「ご、ごめん。覚えてないやっ」

 選びに選び抜いて取り出したハルくんの言葉は、わたしを傷付けるものだった。

「なんだっけそれ、ぜっんぜん記憶にない」

 がしがしと大袈裟に頭をかいて、苦く笑って。

「ごめんナツ。全く思い出せないから、ナツもそんなこと忘れてもらっていい?」

 だなんて言ってくるハルくんは、演劇部にもなりきれないよ。

「そんなの、うそ……」

 あの日あの時のハルくんの顔、真面目だった。

「本当は、覚えているんでしょう……?」

 何か大事なことを言おうとしていたって、ばかなわたしでもわかる。

「どうして教えてくれないの、ハルくん」

 制服のスカートに落ちたのは、わたしの涙。それを隠すようにぎゅっと握ってみるけれど、またすぐに落ちてきた。

「じゃあせめて、告白の返事くらいほしいよ……」

 見上げれば、うろたえるようなハルくんの顔がひとつ。

「わたしはハルくんが好きだよっ。ハルくんはわたしのこと、どう思ってるのっ」

 そう聞けば、場を繋ぐためだけの「ナツ」がひとつ。

 名前を呼んでほしいわけじゃない、わたしはあなたの気持ちが知りたいんだ。

 次から次へとこぼれて落ちる涙を拭っていると、ハルくんがティッシュを差し伸べてきた。
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