ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま35

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「あ、あの時はほんとごめんねっ!うちのお母さんがいきなり変なこと言ってっ」

 もしよかったらお嫁にもらってやってね♪

 常識ある人ならば、初対面の人に対してあんなことは言わない。だからわたしのお母さんは、どこか大事なネジが抜けているに違いない。

「あははっ、謝ることじゃないよ。ナツのお母さん、おもしろくていい人じゃんっ」
「ただ変な人なだけだよおっ」
「そう?俺はふたりのやり取りを見てて、ナツんちって家族仲いいんだなーって思ったけど」
「ま、まあ仲はいいほうかもしれないなあ。誕生日もいまだにみんなで祝ったりしてくれるし……」
「へえ、毎年?」
「うん。むしろその日にわたしが不在だと、怒ってくる。『誕生日は家族で過ごすもの!』とか言って」
「あははっ。愛されてるねえ。俺んちなんか最近どんどん会話減ってるもん。両親共働きであんまり家にいないってのもあるけど」
「で、でもそれとこれとはべつ!」

 握りしめたグーで自分の太ももをぼんっと叩くと、ハルくんはまたもや笑っていた。
 彼の笑顔をしばらく眺め、その笑いが自然と止まれば、リビングには静けさが訪れた。

 しんみりと、ハルくんは言う。

「また会いたかったな、ナツのお母さん……」

 また会いたかったと言われるほど自慢できる親ではないが、ハルくんがそんなことを言っていたよとお母さんに報告をすれば、彼女は大喜びするだろうなと思った。

「また会えるよ。うちのお母さんなんてどこにでも出没するんだから」
「出没?」
「ほら、授業参観とか音楽祭とか。今度探してみて、絶対いるから」
「ああ、そうなんだ」

 わかった、とほんのり口角を上げたハルくんは、それをすぐに戻していた。
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