ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学二年生、春と夏の頃5

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 触らなくてもわかるのは、ぽっぽと燃えていく両方の頬。保健室のカーテンと同じ色、もしくはそれより濃くなってしまっているだろう。

「ナツ。本当に寝てんの……?」

 さらっとこめかみを撫でられて、びくんと全身反応する。だけど目は開けられないノミの心臓のわたしは、眠ったふりを続けるだけ。

「起きてるんでしょ、ナツ……」

 ほら。もうハルくんにだってバレバレなのだから、早いところまぶたを開けてしまわないと開けるタイミングを逃してしまう。なのにどうしてそれができないの。

 心の中、自分にがんと言い聞かせても、ちっとも言うことを聞かない体に参ってしまう。

 早く起きなきゃ、早く起きなきゃ。

 そう何度か唱えている間も撫でられるこめかみ。ハルくんの指先は、そこから頬を伝ってわたしの口元まで来た。

「おいナツ。いつまでも寝たふりしてると唇奪っちゃうぞ」

 なぞられる唇がぴりり、震えていく。

「まじでキスしちゃうよ、いいの?」

 ふざけた言い方をするハルくんは、冗談なのか本気なのかわからなくて困惑してしまう。
 このまま目をつむり続けていたら、どうなるのだろう。

 キスしたい。大好きな人と、キスがしたい。

 そんな気持ちが大きくなって目を開けないでいると。

「じゃあ、するから」

 と言ったハルくんの顔が近付いてきた、ような気がした。
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