ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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 ぴこぴことしっぽを振り続ける犬に、おじいさんは言う。

「ほらポン吉、そろそろ帰るぞい。なにをそんなに興奮しとるんじゃ」

 その言葉で、おじいさんの足元へすぐさま寄ったこのポメラニアンは、とても賢いと思った。

「ばいばい、わんちゃんっ」

 ばいばいの意味も理解しているのか、犬は大きく「ワン」と吠えた。

 制服のスカートについた砂利をはらい立ち上がったわたしの隣、ハルくんが急いで駆けてくる。

「さ、さようならっ」
「ああ。頑張ってな、演劇青年」

 そう言って去ったおじいさんは、最後までわたしを見なかった。


「ハルくん、これからどうする?」

 おじいさんの背中を見送って、ふたりだけになった公園。今日の予定はいまだに未定。今からでも学校へ行った方がいいような気もしてくる。

 何も決まらず立ち尽くしていると、ぽたんと鼻筋にあたった冷たいもの。見上げてみれば、空には怪しい雲が浮いていた。

「雨、降るのかな」
「降るかもね」
「じゃあもうサボるのは諦めて、学校行く?」

 行き先は思いつかないし、雨だし、受験生だし。それがベストな判断だとわたしは思ったが、ハルくんは違った。

「俺んち行こ。両親は仕事で、家には誰もいないから」
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