55 / 120
いま32
しおりを挟む
わたしの一メートルほど後ろ。そこに佇むハルくんへ声をかけたおじいさんは、またもやメガネを取っていた。犬とハルくんを交互に見て、怪訝な顔を作る。
「は、はい」
「さっきから一体、なにをやっているんだね?」
「いや、その……」
「演劇かなにかの練習かい?」
ハルくんとおじいさんの間に挟まれてしまったわたしは、犬の頭を撫でながら黙ってふたりの会話を聞いていた。
演劇の練習。わたしとハルくんのやり取りは、そんな風に見えたのだろうか。
「そ、そうですっ。今度演劇部の発表があってっ」
とりあえず話を合わせることに決めたハルくんは、演劇部になりきった。
「すみません、こんな朝早くからうるさくして……」
「いや、それはかまわんよ。それにしても君、ずいぶんと才能があるじゃないか。練習の相方なしによくもまあ、こんな演技ができるもんだ」
ほうほうと頷くおじいさんに苦笑いで返したハルくんが、ちらっとわたしに横目をやった。
気まずそうな、そんな顔。
わたしはおじいさんの言っている意味がよくわからなかった。
「相方なし……?」
ふと抱いた疑問を小さく口にするけれど、それはおじいさんには届かなかったのか、彼はわたしに見向きもしない。
「は、はい」
「さっきから一体、なにをやっているんだね?」
「いや、その……」
「演劇かなにかの練習かい?」
ハルくんとおじいさんの間に挟まれてしまったわたしは、犬の頭を撫でながら黙ってふたりの会話を聞いていた。
演劇の練習。わたしとハルくんのやり取りは、そんな風に見えたのだろうか。
「そ、そうですっ。今度演劇部の発表があってっ」
とりあえず話を合わせることに決めたハルくんは、演劇部になりきった。
「すみません、こんな朝早くからうるさくして……」
「いや、それはかまわんよ。それにしても君、ずいぶんと才能があるじゃないか。練習の相方なしによくもまあ、こんな演技ができるもんだ」
ほうほうと頷くおじいさんに苦笑いで返したハルくんが、ちらっとわたしに横目をやった。
気まずそうな、そんな顔。
わたしはおじいさんの言っている意味がよくわからなかった。
「相方なし……?」
ふと抱いた疑問を小さく口にするけれど、それはおじいさんには届かなかったのか、彼はわたしに見向きもしない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました
新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。

あさきゆめみし
八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。
それを助ける正体不明の若き男。
その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。
三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。
毎週金曜日更新

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

ざまぁ を目指すショートショート
リコピン
恋愛
「簡潔で鮮やかなざまぁ」を目標に掲げたショートショート集です。
・一話完結です
・一万字以下を目指しています
・タイトルがあらすじです
・不定期更新です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる