ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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 ハルくんと映画館。これはこれで、夢が叶った気がした。

「いいの……?」
「うん。俺もナツと行きたいもん」

 ぱっと心に花が咲く。ハルくんがくれる嬉しい言葉は、わたしの心を彩っていく。

「わたし、ちょうど観たいのあったのっ」
「なんていうやつ?」
「ユーアンドアイっていう映画。三月に公開されたラブコメだよ」

 そう言うと、ポケットからスマートフォンを取り出したハルくんが、この近辺で上映している映画情報を調べ始めた。

「その映画だと、一駅先のAシネマでしかやってないや」
「じゃあそこ行く?」
「でも俺たち制服だよ?Aシネマってけっこう大きいし、人目につくかも。駅の反対側にあるBシネマはどう?」
「ええ、いつもうたた寝してるおばあちゃんがもぎりやってるあのミニシアター?」
「そう。そこだったら人も多くないし、制服姿の俺たちがうろちょろしてても気にする人は少ないと思う」

 雑居ビルのワンフロアで経営しているその映画館は、流行りや新作にこだわらないものばかりを好き勝手に上映しているため、いつも客入りは少なく、潰れないのが不思議なくらいだと噂されている。

「Bシネマかあ……」

 本日の上映作品は知らないが、思い描いた映画デートにならないことはたしかだ。どうせ行くなら学校が休みの日に堂々と、Aシネマを訪れたいと思ってしまった。

「やっぱ映画館はまたにしよっか……ごめんハルくん、せっかく調べてくれたのに」

 ほんのりと未練を残しつつ、わたしは次なる行き先を考え始めた。

 するとその時。
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