ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま27

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 一瞬にして上がってしまうのは心拍数。
 第二ボタンまで開けられた白いシャツから覗くハルくんの焼けた肌が、とっくに上がりきった心拍数を、さらに上昇させてくる。

 顔、襟足、焼けた肌。

 間近の色々のせいで目のやり場に困っているのに、ハルくんがトンッとわたしの後ろの木に腕をつけたから、その全てはズームアップ。もはや目など開けていられなくなった。

「ナツ」

 名前を呼ばれてそろり、強くつむった瞳を開ける。

「ナツ、おはよ」

 星座図鑑を一緒に見ていたあの冬よりも近い距離。目を合わせたハルくんの顔は、そんな距離にあった。

 さっきまで挨拶も返してくれなかったのに、わたしをずっと無視していたのに。どうしてふたりきりになった途端、そんなにも穏やかな表情を見せてくるのか。ハルくんの気持ちがわからない。

 俺、ナツのこと──

 いまだに聞けていないあの言葉の続きと、わたしがした告白の返事。曖昧な関係が、続いている。

「お、おはよ。ハルくん」
「今日はベランダじゃなくて、通学路で会えたね」
「う、うん。えっと、ハルくん忘れものは……?」
「忘れもの?そんなのしてないよ」
「え、じゃあなんで辻本くんたちにあんなうそっ」
「だってナツとふたりきりになりたかったから」

 ほら、だめだもう。肝心なことは伝えてくれないまま、今日もハルくんはわたしをうぬぼれさせていく。こんなの両思いなんじゃないかって、勘違いしちゃうよ。
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