ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま22

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 ポケットへ両手をつっこんだハルくんと、帰り道を行く。せっかく一緒に帰っているのに話しかけてもくれないハルくんは、さっきから一体何を思い悩んでいるのだろう。

 わたしが家以外に帰る場所。
 そんなのちっとも思いつかない。

 心ここにあらずのハルくんと、とぼとぼと歩くだけのわたし。そんなふたりを見かねた風が、ふいに手助けしてくれた。

 香りは今日も、春と夏がミックスされている。そんな風が筆先のようにわたしの頬をくすぐったかと思えば、好きな人の襟足をこそっと揺らしていた。風のいたずらに気付いたハルくんがうなじに手を持っていくと、またふわりと匂いを漂わせながら空へ帰っていく風。決して目には見えないはずなのに、思わず動かした黒目がふたり同じ方向だったから、笑い合った。

「ハルくんは、どの季節が一番好き?」

 先ほどとはがらりと変わった場の雰囲気。明るい声で聞いてみると、ハルくんはうーんと一度うなってから「夏が好き」と答えた。
 ふと自分の名前だと勘違いしたわたしは一瞬浮かれ上がるが、すぐさま季節の話だと思い直す。
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