ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「ナツ、とりあえずまだ帰らないでほしい」

 廊下の彼に聞かれぬようにか、ハルくんは声のボリュームを落としていた。

「でもっ」
「お願い」
「……」
「俺はまだ、ナツといたいんだよ」
「え……」
「ナツとまだ、離れたくない」

 真剣な眼差し、低い声。
 とくん、とその時胸が打ったのは、またうぬぼれてしまったから。

 ナツといたい。

 そんなことを好きな人に真っ向から言われてしまえば、帰れるはずがないじゃないか。

「わ、わかった。じゃあ待ってる」

 わたしがそう言うと、ハルくんは安心したように微笑んで、廊下へ出た。その途端辻本くんに発見されたのか、早速怒られる彼。

「あ!ハルいた!なにやってんだよもうっ」
「ごめんごめん、ちょっとクラスに忘れものしちゃってさ」
「んなわけあるか、なにも持ってねえじゃん!コーチにどう言い訳すんだよ!」

 トイレ、と答えたハルくんには、辻本くんが「校庭にもあるじゃん!」と怒鳴っていた。バタバタと忙しない足音が遠くへ消えれば、まわりは再び静かになった。

 ナツといたい。

 頭で木霊こだまするのはハルくんの言葉。いまだにとくんとくんとうつ胸に手をあてながら、わたしはベランダへ出た。
 見えた夕空、一番星が顔を出す。

「ハルくん……」

 ねえハルくん、わたしもまだ、あなたといたい。
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