ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学一年生、夏の頃3

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「ナツお待たせーっ」

 翌日。ドキドキしながらチケットに書かれた席へ座って待っていると、見慣れた制服を着た男の子が数名現れた。

「おつかれっ、ハルくん」

 ハルくん以外のみんなには「おつかれさま」と言うと、彼らも「おう」や「うっす」と返事をくれた。

「ハルはどこの席?俺、567」

 各々のチケットに目を落とし、確認するのは席の番号。わたしの席は通路側の563だけれど、隣にハルくんが座るとは限らない。

 どうしよう。他の誰かが隣に座っても、うまく喋れるかな。

 そんな心配は、すぐにハルくんが取り払ってくれた。

「七席ぶんは俺たちグループの席だし、適当に座ればいいんじゃない?俺はナツの隣に座るわ」

 その言葉とともに、平然とわたしの隣の椅子に尻をつけるハルくん。その際とんっと触れた肩と肩。全神経がそこへ集中する。
 ハルくんのそんなさまを見た他のみんなも、次々と適当に腰を下ろしていく。彼の側に座ったひとりが、にししといたずらな歯を見せた。

「ハル、綿矢さんのこと好きなんだろー」
「はあ?ち、違うしっ」
「お、動揺してますな、怪しい」
「つ、辻本つじもとはすぐそうやって誰かとくっつけたがるよなっ。黙ってろっ」
「あーい。にししっ」

 冷やかしをなんとかしずめたハルくんは、昨日わたしたちが偶然会ったスーパーの袋を鞄から取り出すと、その中からずいぶんと大きなメロンパンをひとつ出し、開封していた。
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