ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学一年生、夏の頃2

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 聞いたことがあるような、ないような。そんなふたつの名前の対決。

「サッカー?」
「違うよ、プロ野球」

 野球男児のハルくんを前に、わたしはばかか。考えずともわかるだろうに、頭も口もばかばかばか。

 久々の再会で、早速おかしたいらぬ失態。げんなりしたわたしを気にもとめず、ハルくんは続けた。

「父さんの知り合いの関係で何枚か譲ってもらえたんだけど、全部は配りきれなくって。だからもしよかったら、ナツもどう?」
「他に誰か来るの?」
「野球部の奴ら数人だよ。誘っておいてなんだけど、ナツの仲いいのはいないかも」

 野球部に所属するメンバーの中で、わたしが気軽に話せる人はハルくんのひとりだけだ。その中に混ざるのはだいぶハードルが高いことだと思ったけれど、ハルくんと一緒に過ごしたい気持ちの方が断然まさった。

「い、行きたいっ!」

 胸元で拳を作り、前のめりでそう言うと、ハルくんの瞳がキラキラと輝く。

「まじ!?行ける!?」
「うん、行ける行けるっ!なにも予定ないもん!」
「じゃあ明日、夜六時までには現地にいてっ。俺たちは夕方の部活終わり次第、ダッシュで向かうから」

 はい、とハルくんは、手に持っていたチケットをわたしに渡す。

 8月25日 日曜日。16時開場 18時試合開始。

 やっぱりここでも「5」の数字。このドリームチケットは、一生とっておこう。

「ふふっ。明日もハルくんと会えるなんて、嬉しいな」

 ふとこぼしてしまった本音は、慌てて口元を覆い隠してなかったことにするけれど、時すでに遅かった。今の言葉がしかとハルくんの耳にも届いてしまったと理解したのは、彼がこう返してきたから。

「俺も。明日もナツと会えるなんて、超嬉しい」

 その時ハルくんの頬が赤く染まったように見えたから、全身むずがゆくなったんだ。
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