ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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中学一年生、春の頃2

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「どうしてわたしの名前、知ってるの?」

 名簿はまだ配られていないし、黒板に書かれている席順はクラスメイトみんなの苗字だけ。それなのにわたしのフルネームをぽんぽん連呼する彼は、一体どこでその情報を仕入れたのか。
 わたしの質問に、彼は「へ?」と首を出す。

「だって校門に貼り出されてたじゃん、クラス発表の用紙」
「それだけで全員のフルネーム、覚えられる?」
「まさか。全員なんか覚えられないよ。俺からしたらほとんど知らない人ばっかだし。でも俺の名前の隣にあった、綿矢さんだけはすぐに覚えられた」
「どうして?」
「だってナツだから」

 パチンッと甲高く指を鳴らした彼は、その指でそのままわたしをさしてこう言った。

「ハルとナツ。俺たちの名前って、なんか季節みたいだよね」

 春と夏。言われてみればたしかにそうだと思い微笑むと、彼のすらっと長い手が差し出される。

「よろしくね、綿矢ナツさん」

 思わずとったその手から感じたのは、春のような優しい温もり。

「よろしくね、相良ハルくん」

 あの時の感触を、いまだにわたしは忘れられずにいる。
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