ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま5

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「寝ちゃってたって、どういう意味……?ずっとここでじゃないよね……?」

 ベランダで就寝できた自分をわたし自身心底驚いたのだから、そんなことをしないハルくんからして見れば、わたしは気狂きちがいにも宇宙人にも思えたかもしれない。
 ぱっと頭に浮かんだ言い訳は、苦しいものだった。

「か、風が気持ちよかったから、目を閉じていたの。そしたらいつの間にかっ」

 今は五月。春と夏のちょうど狭間。そよそよと吹く風が心地いいのは事実だ。
 でも、だからといって、こんな場所で熟睡する人間なんてわたし以外いないと思うけれど。

 ぽりぽりと頬をかいて、上目でハルくんを見る。風になびく彼の長めの襟足が野球部員らしくなくて、そして似合っているなあと、こんな状況下でもしんみり思う。

「なんで、ここにいるの?」

 クエスチョンが止まらないハルくんは、わたしがベランダにいる理由を聞きたがった。
 部活動中のあなたをこっそり見るために、だなんて言えないから、またもやポンコツな言い訳を繰り返す。

「だ、だからっ。風が気持ちよかったから」
「それだけ?」
「そ、そうだよっ」
「それだけの理由でここにいたわけじゃないでしょ?」

 そうだよ、本当はそうじゃない。
 だけど言えない。あと少しの勇気がいっつも出ない。

「も、もう行くねっ」

 ハルくんの隣を過ぎ去って、飛び込むように教室へ入った。

「またねハルくんっ。遅くまで練習おつかれさまっ!」

 彼の顔も見ずにそう言い残し、廊下へ出た背中に叫ばれたのはわたしの名前。

「ナツ!待って!」

 その時振り向きたかったのに振り向けなかったのは、またもや勇気の出なかった自分のせい。
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