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「寝ちゃってたって、どういう意味……?ずっとここでじゃないよね……?」
ベランダで就寝できた自分をわたし自身心底驚いたのだから、そんなことをしないハルくんからして見れば、わたしは気狂いにも宇宙人にも思えたかもしれない。
ぱっと頭に浮かんだ言い訳は、苦しいものだった。
「か、風が気持ちよかったから、目を閉じていたの。そしたらいつの間にかっ」
今は五月。春と夏のちょうど狭間。そよそよと吹く風が心地いいのは事実だ。
でも、だからといって、こんな場所で熟睡する人間なんてわたし以外いないと思うけれど。
ぽりぽりと頬をかいて、上目でハルくんを見る。風になびく彼の長めの襟足が野球部員らしくなくて、そして似合っているなあと、こんな状況下でもしんみり思う。
「なんで、ここにいるの?」
クエスチョンが止まらないハルくんは、わたしがベランダにいる理由を聞きたがった。
部活動中のあなたをこっそり見るために、だなんて言えないから、またもやポンコツな言い訳を繰り返す。
「だ、だからっ。風が気持ちよかったから」
「それだけ?」
「そ、そうだよっ」
「それだけの理由でここにいたわけじゃないでしょ?」
そうだよ、本当はそうじゃない。
だけど言えない。あと少しの勇気がいっつも出ない。
「も、もう行くねっ」
ハルくんの隣を過ぎ去って、飛び込むように教室へ入った。
「またねハルくんっ。遅くまで練習おつかれさまっ!」
彼の顔も見ずにそう言い残し、廊下へ出た背中に叫ばれたのはわたしの名前。
「ナツ!待って!」
その時振り向きたかったのに振り向けなかったのは、またもや勇気の出なかった自分のせい。
ベランダで就寝できた自分をわたし自身心底驚いたのだから、そんなことをしないハルくんからして見れば、わたしは気狂いにも宇宙人にも思えたかもしれない。
ぱっと頭に浮かんだ言い訳は、苦しいものだった。
「か、風が気持ちよかったから、目を閉じていたの。そしたらいつの間にかっ」
今は五月。春と夏のちょうど狭間。そよそよと吹く風が心地いいのは事実だ。
でも、だからといって、こんな場所で熟睡する人間なんてわたし以外いないと思うけれど。
ぽりぽりと頬をかいて、上目でハルくんを見る。風になびく彼の長めの襟足が野球部員らしくなくて、そして似合っているなあと、こんな状況下でもしんみり思う。
「なんで、ここにいるの?」
クエスチョンが止まらないハルくんは、わたしがベランダにいる理由を聞きたがった。
部活動中のあなたをこっそり見るために、だなんて言えないから、またもやポンコツな言い訳を繰り返す。
「だ、だからっ。風が気持ちよかったから」
「それだけ?」
「そ、そうだよっ」
「それだけの理由でここにいたわけじゃないでしょ?」
そうだよ、本当はそうじゃない。
だけど言えない。あと少しの勇気がいっつも出ない。
「も、もう行くねっ」
ハルくんの隣を過ぎ去って、飛び込むように教室へ入った。
「またねハルくんっ。遅くまで練習おつかれさまっ!」
彼の顔も見ずにそう言い残し、廊下へ出た背中に叫ばれたのはわたしの名前。
「ナツ!待って!」
その時振り向きたかったのに振り向けなかったのは、またもや勇気の出なかった自分のせい。
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