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月曜日の放課後のベランダでひとり、手すりに手をかけ見下ろす校庭。野球部の部員二十人ほどが熱心に練習へ励むなか、わたしの目はあるひとりの男の子だけを追っていた。
「頑張れっ、ハルくんっ」
そう小さく呟いて、エールを送る。バッターボックスに立ったハルくんは、コンコンとバッドで砂を二度打ってから、フォームをかまえた。
真剣な顔。三階からだって、よく見える。
「いけっ」
ピッチャーが投げたボールがハルくんのバッドにあたった瞬間、カキーンといい音が鳴っていた。
飛んだボールは誰の手にも届かない高い空まで来ると、そこから一気に急降下。真っ直ぐこちらへと向かって落ちて来る。
「え、うそでしょっ」
頭を抱えたわたしがとっさにしゃがみ込んだのは、そのボールとぶつかりそうになったから。
「ひゃっ!」
思わずもれた、変な声。
わたしが今いる場所、三年五組のベランダへゴンッと音を立てて落ちたボールはころころと転がって、壁ぎわあたりで止まっていた。
「あ、危なかった……」
窓ガラスも無事、わたしも無事。
ほっと胸をなでおろし、ゆっくり立ち上がる。しかし再び校庭へと目を落としてみれば、そこにいる部員のうち、ハルくんだけがわたしのいる三階のベランダを見ていたから、またもや声が変になった。
「ひゃあ!」
慌てて目を逸らし、ひざを抱えて座って隠れた。ドキドキとうるさい心臓は、止めたくても止められない。
だってハルくんに見られてしまった。ばちんとしっかり目が合って、わたしの存在を認識されてしまった。こっそりと野球部の練習を見学するのは、中学一年生の頃からずっと、わたしの特技だったはずなのに。
「頑張れっ、ハルくんっ」
そう小さく呟いて、エールを送る。バッターボックスに立ったハルくんは、コンコンとバッドで砂を二度打ってから、フォームをかまえた。
真剣な顔。三階からだって、よく見える。
「いけっ」
ピッチャーが投げたボールがハルくんのバッドにあたった瞬間、カキーンといい音が鳴っていた。
飛んだボールは誰の手にも届かない高い空まで来ると、そこから一気に急降下。真っ直ぐこちらへと向かって落ちて来る。
「え、うそでしょっ」
頭を抱えたわたしがとっさにしゃがみ込んだのは、そのボールとぶつかりそうになったから。
「ひゃっ!」
思わずもれた、変な声。
わたしが今いる場所、三年五組のベランダへゴンッと音を立てて落ちたボールはころころと転がって、壁ぎわあたりで止まっていた。
「あ、危なかった……」
窓ガラスも無事、わたしも無事。
ほっと胸をなでおろし、ゆっくり立ち上がる。しかし再び校庭へと目を落としてみれば、そこにいる部員のうち、ハルくんだけがわたしのいる三階のベランダを見ていたから、またもや声が変になった。
「ひゃあ!」
慌てて目を逸らし、ひざを抱えて座って隠れた。ドキドキとうるさい心臓は、止めたくても止められない。
だってハルくんに見られてしまった。ばちんとしっかり目が合って、わたしの存在を認識されてしまった。こっそりと野球部の練習を見学するのは、中学一年生の頃からずっと、わたしの特技だったはずなのに。
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