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第7話 デスレース 前編

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朝早くにナインは傭兵ギルドにいた
そこで馴染みの職員のサッソと話していた

「またマフィアの壊滅やら怪盗団の殲滅とか
 色々派手にやっているらしいですね」
「好きでやってない
 完全な巻き込まれ事故だ」
張り出し中の各依頼に目を通しながらサッソに聞く
「イザナミの脱皮後の調子も見たいから
 何か手ごろな仕事は無いか?」
サッソは自分の机から紙を取り
ナインに渡した
「おあつらえ向きの物がこちらに」
「ドラゴンレース?
 なんだこれ」
「ダービー卿という方が
 新たに主催するイベントらしいです
 最強最速のドラゴン乗りは誰だ
 っていうのがテーマらしいですね」
「最強最速?」
「妨害
 殺し合い
 なんでも有りのガチンコレース
 どうです?
 うってつけかと思いません?
 名大最速を誇るナインさんとイザナミのコンビなら」
「賞金は」
紙に書かれた金額を確認する
「なるほどね」
「中々えぐいんですよね
 その金額」
「暇つぶし以上の価値はありそうだな」

レース登録のため用紙記入をするナインにサッソが言う
「なんでも元トランプのスペードの方も参加されるそうですよ」
「ナンバーは?」
サッソは2本の指を立ててピースサインを出す
「アクセルの兄貴かよ
 また面倒な人が」

ツー・スペード(2♠)
現在はアクセル・ベロシティと名乗っている
ナインより少し年上で兄貴分にあたる
傭兵の腕はスペードでも屈指のモノだが
幼い頃から何かとナインに絡んでくる
ナイン同様団長のテンペストに心酔しており
ツーハンドのスタイルを踏襲している

「確かナインさんとは
 仲がよろしくなかったんでしたっけ?」
「あっちが一方的に絡んで来るだけだよ
 他にはどんな連中が?」
「有名なところでは
 ガッタメラータ火竜傭兵団のドナテロさんも」
「火竜のところか
 昔はよくやりあってたけど
 ドナテロって奴は知らないな」
「最近メキメキと腕を上げてエース格になった人だそうです
 あとは獅子竜傭兵団ってところのメンバーが」
「どこの傭兵団だ?」
「ファラカ大陸で活躍中だそうです」
「あの黒人連中の?」

ファラカ大陸はナインたちの住むエウロペ大陸の南に位置し
未だ大自然の残る未開の地と言われている
ここではドラゴンは自然交配が行われ
人間たちの知らない未知のドラゴンがいると噂になっている
また大国の代理戦争の場とも呼ばれ
傭兵たちにとっては主戦場となりつつある

「そうです
 なんでも勇猛なドラゴン乗りだそうですよ」
「知ってるよ
 あいつらの体術は独特でやり辛い
 ただ竜乗りってのは初めてだ
 獅子竜ってのも見たことないし」

ナインは記入用紙を書き終えサッソに渡す
「中々楽しいレースになりそうだ」


レース当日
スタート地点には数多くのドラゴン乗りが終結
主催者代理の人間が開会のあいさつをしているが
誰一人として聞いていない
基本傭兵たちの集まりなので礼儀などは皆無な連中だ

主催者のダービー卿は大型の翼竜による飛空艇に乗り
優雅に観戦しているらしい

その中でナインは
アクセルと相棒竜のネレウスの姿を遠目に確認する
面倒だとそっとその場を離れたが
不意にアクセルはナインの目の前にやって来た

「兄貴分に挨拶無しか
 ナイン?」
「アクセルも出るんですか
 このレース?」
「当然だろ
 ドラゴン最速っていやあネレウスと俺のコンビだろ」
「イザナミも
 大概速いですよ
 間違いなくあんたたちよりも」
「相変わらず生意気言うじゃねーか
 だがな
 このレースは殺し合いもありなんだとよ」
アクセルはナインの腰に目をやる
「って
 お前
 ラッキーストライクはどうした!?」
「ここにありますよ」
右手に取って言う
「そうじゃなくて!
 もう一丁は?
 そっちのはワイルドターキーだろうが!」
「人に貸してんすよ」
「ふざけんな!
 ライオットさんの至極の一品を!!」
「だからですよ
 大切な人なんですから」
ナインは笑顔で返す
アクセルは常に無表情だと思っていたナインの笑顔に
一瞬戸惑う
「誰だよ」
「マリーって女の子です
 そーだ
 彼女は兄の仇でスペードのメンツを探しているらしいで
 会っても殺さないでくださいよ」
「なんだそれ
 知るか!
 命狙われたら無条件で返り討ちだろうが」
「赤毛でツーハンドの女の子です
 絶対殺さないでくださいよ」

話している二人にもとに
何人かのドラゴン乗りがぞろぞろとやって来た

「おい元トランプの」
ナインとアクセルが話しかけてきた人間をにらむ
「お前たちは俺たちエンペラー傭兵団が殺してやる」
ナインとアクセルがそれを聞いて
思わず笑いだす
「何笑ってやがる!」
「いや
 エンペラーって」
「ダサいにもほどがあるだろー」
「てめーら!」
エンペラー傭兵団と名乗る人間は怒りで腰の銃に手をかける
しかし抜くより速く

銃声二つ

ナインとアクセルがそれぞれ一発ずつ
その傭兵の頭を撃ち抜いていた

あたりがざわつく
ナインは団長が殺された残りのエンペラーの連中に言う
「レースの実行委員に言ってくれ
 棄権者一名だ」

するとレース開幕1分前のファンファーレが鳴り出した
実況者が拡声器で「開始1分前」と宣言

場にいた人間たちがレースへの体勢を整える
アクセルがナインに向かって笑いながら言う
「殺すつもりでいくぞ」
「じゃあこちらは死なないつもりでいきますよ」
ナインが答える


レース開始の合図の爆発と共に
多く詰めかけた観客の声援が鳴り響いた

レースの参加登録者は24人
ほぼ全てが傭兵を生業にしている者たち
内一名は先ほどの騒ぎで棄権

レースの全貌は

ナインのホーム・アルカディア周辺で
最大の都市ライヴァ―バードの
シャンクの門から始まり

イリアス英竜国の首都ロンディス
その象徴的建物である時計塔がゴール


走行距離は約300km

途中4つのチェックポイントを通り
もっとも速くゴールにたどり着いた者が勝者となる

参加者はこのレース参加にあたり
生死は問わない
と一筆書かされている

時代的にはまだスポーツ全般が貴族の観戦娯楽であったため
このレースは一般大衆が楽しむ事が出来る
初の一大イベントとなった

レースの道沿いには
多くの民衆が駆け付けた
流れ弾に当たって死ぬかもしれないにも関わらずだ


スタート直後
一匹のドラゴンが先頭を抜け出す
多足種と呼ばれる8本足のドラゴン乗りだ

しかし後方からの一斉掃射を受け
乗り手が落竜
開始早々早速一名がリタイアとなった

今回のレースのルールでは落竜は失格となる


「慌てる乞食は貰いが少ない
 よく言ったもんだ」
ナインが銃をホルダーにしまって言う
「要注意はアクセルと他2名か
 火竜乗りと例の獅子竜のか」

先ほどの一斉掃射で多くの者が発砲したが
命中したのはナインとアクセル
その他2名のみ

ナイン以外の3名もその事には気付き
それぞれが自然と距離をとった


参加者の竜の種類は多彩で
特別種と呼ばれる
火竜や雷竜
特別種の中でも希少な翼竜までもが参加している


参加者の戦略はそれぞれで
開始速攻で他を全滅させて悠々と道のりを楽しむ魂胆の者

まずは様子見をしてから流れを見極め
勝負所で一気に決める事を狙う者

最初に動いたのは開始直後に一気に抜け出し
他を寄せ付けないで逃げ切ろうと狙う者だったが
それは先ほど


次に動いたのは他を殲滅し優勝を狙おうと思った連中

砲撃竜と呼ばれる大砲を身に着けた竜
移動速度は遅いが砲撃による圧倒的な火力を誇る
エンペラー傭兵団と名乗った連中だったが
ナインはもう彼らの事は覚えてない

攻撃の間合いに入るため
後方に距離をとったが
ナインやアクセルの先頭集団にはもう追いつけないほどの距離となった

エンペラーの一団は一斉に砲撃を開始するが
先頭集団はすでに射程の外にいた

先頭集団とはいえ互いに
けん制しあえる距離は保っている
その中にはナインとアクセル
火竜乗りのドナテロと獅子竜乗りのティジャーンもいる
他2名の計6名

レースは開始から30分ほど
第一のチェックポイントである
マシウスの街に先頭でたどり着いたのは
ディジャーンと獅子竜シャンゴのコンビ
続いてドナテロと火竜ダビデのコンビ
アクセルは3着
ナインは4着

アクセルはナインに近づき声をかける
「ぶっちぎって行くかと思ったが
 どうした
 イザナミのスタミナが不安か?」
「後ろにおかしな連中がいるから警戒してるだけだ」
ナインは後ろを見ながら言う
「自爆を狙ってる連中か」
「気づいてたのか」
「当たり前だろ」
「いやアクセルは勘だけで生きてると思ってるから」
「お前ほんと
 いい加減にしろよな」
「奴らの
 狙いが分からない
 はじめは俺を狙ってるのかと思ってたけど
 違うみたいだ」
「気にしててもしょうがねーだろ」

アクセルはスピードを上げて前に出た

「嫌な事は起こらなきゃいいけどな」
ナインのつぶやきに
イザナミが小さくうなずいた


続く
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