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第5話 スパ・カジノロワイヤル
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「温泉に行くぞ」
「何ですか急に!?」
朝一でナインがミネルバに会うとそう告げられた。
「イザナミに脱皮の兆候があるんだよ」
「でもイザナミはもう過去に脱皮してるじゃないですか」
「どうやら複数回脱皮の種みたいだ
イザナミは元は野良ドラゴンだからね
素性も含めまだまだ分からない事が多いんだよ」
本来ドラゴンの寿命は種族や交配により違いはあるが
少なくとも100年から200年は生きる生き物だ
その長い寿命の中でドラゴンは成竜する際に一度だけ脱皮をする
複数脱皮するドラゴンは稀である
ちなみにその鱗や皮は硬く頑丈で軽量という事もあり
装備品としての需要が高い
ナインの来ている黒いジャケットもや脛当てなども
イザナミが脱皮した時の物を加工して使っている
そのドラゴンの脱皮をスムーズに進めるためには
温浴が効果的という事は
研究により判明している
「分かりました
イザナミを温泉に連れていけばいいんですね」
「私も行く」
「いや
俺だけで大丈夫です」
「というかうちの従業員も連れていく
最近忙しかったからね
ねぎらいも兼ねた社員旅行だ」
「それは別に行ってもらえればいいかと……」
ナインは分かっていた
ミネルバと旅を同伴するという事は
厄介事が大量に降ってくるという事を
「ナイン
お前もういい年なんだし
そろそろ身を固めたっていい時期じゃないか
何ならうちの従業員紹介してやっても」
「何言ってるんですか姐さん
大事な人ができたって手紙で送ったじゃないですか」
「手紙だぁ?
あんたねー
うちに日にどれだけの手紙が来ると思ってんのよ
世界中から数千数万って来るんだよ
そんなの読んでないに決まってるでしょうが」
「いや
読んでくださいよ
せめて元団員の連絡くらいは」
ミネルバがタバコに火をつけ
質問を続ける
「で
どんな娘なのよ
まさか男?」
「女の子です
いい娘なんですから」
ナインはマリーから預かっている銃である
ワイルドターキーを出してミネルバに見せた
「なんだい
そういえばラッキーストライクはの片割れは?」
「彼女と交換をしました」
「いいのかい
ライじいさんの遺品だろ」
「まだ生きてますって!
ここ来る前に寄ってきたんだから」
「生きてるのかい
最近フルゴラの定期診察に来ないから
てっきり死んだものだと思ってたよ」
「それは
ライじいが姐さんを苦手で……」
「なんだって?」
「いえ
なんでもないです」
ミネルバはグラスに酒を注ぎ
一口飲んでからナインに言った
「連れてきな
私がチェックしてやるよ」
「彼女をですか?
何言ってるんですか
それに彼女は旅をしてるんで無理です」
「旅だぁ
なんでだい
仕事は貿易商かなんかかい?」
「流れの傭兵で
今は兄の仇の元トランプのメンバーを探してます」
「なんだいそりゃ
私の所に来たら勘違いだろうと返り討ちにしちまうよ」
「だから手紙を書いたんじゃないですか
殺さないでくださいって
それに彼女が探してるのはスペードのメンバーらしいから
姐さんの所には来ないと思います」
「仇ってのは誰だい」
「それが分からないから
真相を突き止めるためにも旅をしてるって話ですよ」
「まったく
あのナインにも恋人とはね
私はてっきりアルマといい仲になると思ってたんだけどね」
「アルマ?
なんでですか」
「あいつももう腕に関しちゃ一人前で
いい加減一人立ちさせなきゃって思ってんだけど
相変わらず私以外の人間の前だとろくに会話もできないだろ」
「らしいですね」
「そうなんだよ
でもあんたとは普通にしゃべれるじゃないか」
「なんか俺にもよくわからないんですけど
ドラゴンの声が聞こえる人間となら話せるって言ってますよね
アレどういう意味なんですか
アルマに聞いてもよくわからなくて」
「あんた
イザナミの気持ちわかるかい?」
「まぁなんとなく
アルマみたいに会話は無理ですけど
そろそろ付き合いも長いですし」
「そうじゃないんだよ
お前たちは初めから会話をしてた」
「なんですか
それ」
「分かったよ
少し話してあげる」
「イザナミは私が捕まえた事は知ってるね」
「それは聞いてます」
「連れ帰ってはみたものの
あの子は誰からも食べ物を受け取らなかったんだ
さらに団の誰が乗っても全力で振り落としてね
ドラゴン乗りとして世界有数の私たち団の誰一人として乗れなかった
自信満々で臨んだテンピーすら落とされた時は
そりゃ笑ったもんだ」
「団長ですら」
「まぁ
そんな事より
私は何も食べないこの子の事が不憫でね
どこか静かに暮らせる森を探して放そうかとさえ考えていたんだ
そんなある夜さ」
「竜厩舎に夜なのに明かりがついててね
誰かの消し忘れかと思って見に行ったら
あんたがイザナミと話しながら
あんたが食べてた物をイザナミが食べるのを見たのさ」
「俺が?
覚えてないな」
「だろうね
あんたも幼かったから
それでイザナミはあんたの相棒竜にってテンピーに言ったんだ
アイツは猛反対だったけどね
お前がイザナミに殺されるって」
「それで?」
「押し切って乗せてみたら
静かなもんでね
まるで母親にのる子供に見えたよ」
「そんな事が」
「実は初めてあんたがイザナミと話してる夜の様子は
アルマも一緒にみてたんだよ
その時初めてアルマが笑ったんだ」
「なんでですかね?」
「自分と同じ人間に会えた喜びじゃないかなって
私は思ってるけど」
灰皿にタバコを押し付けミネルバが立ち上がる
「無駄話はこれくらいでいいだろ
さぁ温泉に行くぞ!」
「行くところは決めてるんですか」
「決まってるだろ
スパ・カジノロワイヤルだよ」
こうしてナインの困難極まる旅が始まった。
スパ・カジノロワイヤルとは
ホテルとスパとカジノの一体型の複合施設であり
ミネルバは年に一度はこのカジノに来て
日ごろのストレス発散をしている
結局社員旅行は20人近くの大所帯になった
各々が自分のドラゴンに乗り
療養で連れて行くドラゴンと共に
ちょっとしたキャラバン隊の様相だった
「ごめんナイン
多分色々起こると思う」
「大丈夫
姐さんからの厄介事は慣れっこだから」
道中ナインとアルマは並んで進んでいた
アルマもミネルバとの関係が長いため
この旅が平穏無事に終わるなどこれっぽっちも思っていなかった
「イザナミに聞いたけど
ナイン恋人できたの?」
ぶっ!
ナインは突然の質問に飲んでいた水を吐き出した
「いきなりだな」
「いや特に
話す事もなかったから」
「それでいきなりこの話題か」
しかしイザナミとアルマは静養中に何の話をしてんだ
しかも結構込み入った話もしてるし
「そう
大事な人ができたよ
マリーって娘だ」
「どんな子(ドラゴン)に乗ってるの?」
「キリンジって名前のドラゴンで
麒麟種と言ってたな」
「見てみたい
今度連れてきて」
「分かったよ
いつかね」
アルマは人にはあまり興味を持たないが
ドラゴンへの好奇心が強すぎる
その対人コミュニケーション能力の問題と相まって
見た目はカワイイのに変人扱いされるケースが多い
「でもイザナミがね
お姫様ともいい感じだったのにって」
「もう何の話してんだよ」
「ガールズトーク」
「いや確かにイザナミは雌だけど
人とするのがガールズトークなんだよ」
「だって人と話すの嫌い」
まったく
キャラバン隊が二日ほど進んだところで
お目当てのカジノの街に到着した
辺り一面荒野なのだが
このカジノが複数あるエリアだけは
派手なネオンやら照明やらできらびやかな世界だ
「なんだって!
カジノが封鎖中だぁ!!?」
「あのミネルバ様
他のお客様のご迷惑になりますので
もう少しお声の方を……」
「やってないカジノに
他にどんな客がいるってんだい!」
カジノのカウンターにてミネルバがカジノのオーナーといきなりやりあう
着くなり早速の事件である
話を聞くとこうである
なんでもある怪盗団が
このあたりのカジノから金庫の金を奪い続けており
各カジノは店を封鎖
奪われたカジノはその金の奪還
まだ襲われていないカジノはその防衛対策に追われ
営業どころではないらしい
「ふざけるんじゃないよ!
私はここでのストレス発散のみを生きがいにしているんだ
さっさと開けなさいよ!」
「ミネルバ様は上得意のお客様ではございますが
生憎と今は本当に取り組み中となっておりまして」
このホテルは唯一ドラゴンも入れる大型浴槽を完備し
カジノも最大規模を誇っていたため
ミネルバは常にここを利用しており
今回も当然使うつもりだった
幸いまだ怪盗団には襲われていないが
防衛のために全神経をとがらせていた
「分かったよ
私たちがその怪盗団をぶっ潰してやる
そしたら即営業開始でいいね!」
「それはこちらとしても
願ったりかなったりではありますが」
「話は決まりだ
ナイン!
どうにかしな!」
やはり来ましたミネルバの無茶ぶり
アルマがナインの肩をポンと叩く
分かってはいた
そう来るだろうなと思っていたナインは直ぐに情報屋に
ミニ竜メールを飛ばした
ナインは昔所属していた傭兵団を壊滅させた裏切者を探し出すため
表社会と裏社会の両方に情報網を築いていた
ただしその情報網の維持にはお金もかかるし
たまに汚れ仕事と引き換えという事もあり
色々と大変だった
「とりあえず探りを入れてみますから
姐さんたちはゆっくりと静養していてください」
「さっさと情報をあつめるんだよ」
ナインの言葉にミネルバたちはスパにて英気を養いに向かった
翌日
ある情報屋から有力な情報が届く
この一帯のカジノを【山鼠団】という賊が荒らしている事
その賊は複数の土竜種のドラゴンを抱えており
土中にトンネルを掘り
地下の金庫にたどり着くという手口を繰り返していた事
カジノ経営は実際マフィアが経営している事が多く
その各々が対立しているため
他からの情報が入りにくいという状態
その為
どんな手口でやられたかの共有がされておらず
賊にまんまと同じやり方でやられ続けていた
ナインは情報網で丸裸にされた山鼠団を
「ネズミってよりモグラだろ」
とぼやきながらその壊滅計画を立てていた
そんなナインの所にミネルバたちが戻って来た
中には社員旅行以外のメンバーも混じっていた
「よおナイン
相変わらずかたき討ちっつ~陰気な日々かい?」
「ペニーさんじゃないか
こんなところで奇遇
って言うか
そりゃそうかここカジノだもんね
あなたが居ても不思議じゃないか」
この女性の名前はラッキー・ペニー
元トランプ傭兵団でナンバーネームはセブン・ダイヤ(7♦)
ダイヤのグループは金銭と依頼の管理がその主業務であり
ほぼ全員が真面目な性格をしていたが
このペニーだけは例外
ギャンブルがこの上なく好きでしかもすこぶる運がいい
さらに戦場で運がよく
幸運にも生き残るというエピソードが
日に日に増えていった
終いにはラッキーアイテムよろしく
彼女を自分の戦い連れて行きたがる人間が増えた
しかし戦いよりもギャンブルが好き
というか戦いが嫌いという性分のため
戦場に行く事自体を嫌がっていた
ギャンブルが好きという点でミネルバとは気が合った
「スパでゆっくりしてたらペニーと会ってさ」
「ナイン
さっさと賊を潰してくれよ
カジノがとまってちゃ
私は水の無い魚みたいなもんだよ~」
「なら協力してもらいますよ
場所はわかったんで」
「私が戦い嫌いな事
お前だってしってるだろ」
「何言ってんですか
カジノで遊びたいんでしょ
なら働きなさい」
「ミネルバぁ
ナインが生意気言うよ~」
「いやお前も働けよペニー」
ミネルバがペニーの頭をはたいた
そして
ナインは賊壊滅の計画を皆に話した
「荒野の中にあるこのカジノタウン
この街の西方約4kmの所に小さな丘がある
昔そこには中世からの魔術を使う連中の墓があるとかで
地元の人間は立ち寄らない
そこに小さな祠があるらしく
山鼠の連中はそこを根城にしてるらしい」
「そこで連中を皆殺しにすればいいわけね」
「まず姐さんのドラゴンのオッドルで先鋒射撃をしてもらって
蜂の子を散らした連中を個別撃破
その流れでいいですか?」
「やだ」
「え
何がすか
姐さん」
「ストレス発散にならない」
「いやあの
これが一番楽で被害の出ない作戦なんですけど」
ミネルバは
愛用のショットガンであるベルヴェデールRM11のスライドをひき
言った
「堂々と乗り込んで皆殺し」
「私はナインの楽な作戦でいいかな~と」
ペニーがそーっと手を上げて進言するが
「堂々と乗り込んで皆殺し」
すぐに引っ込める
結局
少数精鋭という形で
ナインとミネルバとアルマとペニーの4人のみで襲撃する事になった
「本当に私も行かなきゃだめ~?」
とペニーは最後までダダをこねたが
はー
ため息をついてから
ナインは全員に合図を送る
全員が祠の壁に向かって一斉掃射
壁が大きな音を立て崩れ落ちる
しかしそこには誰も居ない
「ちょっとナイン
どういう事?」
ナインは慌てて祠に入る
すると祠にはドラゴンでもゆうに入れる
大きなトンネルが掘られているのを見つける
イザナミから降りて地面に耳を当てる
「ちょっとナイン~」
「しっ!
距離は結構あるな
あいつら次の獲物を狙いに地中を進んでる!
後を追う」
地面のトンネルを進むと道は4つに分岐していた
今まで襲われたカジノ3つで
穴が4つ
一つが今回の当たりということになる
ちょうど4名だったので4人がそれぞれ穴に入る事となり
じゃんけんで勝ったものから穴を選んだ
最初に選ぶのはペニー
賭けに強いがじゃんけんも強い
「あ~あ
どうせ私が当たりくじ引くんだよ」
皆もその予感があったが
それはそれで面白そうと黙っていた
「じゃあ当たりを引いた人はドラゴンの咆哮で合図
それを聞いた他の者たちは直ぐに合流して敵を殲滅
という流れで」
数分後
皆の予想通り
ペニーのドラゴンの咆哮が聞こえた
3人は慌てて分岐点まで戻り
ペニーの穴を進んだ
現場についてみると
賊は岩盤が崩れ生き埋めになり息絶えていた
ミネルバはタバコに火をつける
「何があったの」
ハハハとペニーが笑って
「なんか地盤沈下が起きたみたいで
賊が勝手につぶれて死んだみたい
いや~ほんとラッキ~」
やっぱペニーの幸運力はやばい
とナインが思っていた横で
ミネルバがプルプル震え出した
「で
私の憂さ晴らしは
どこでやれと」
ナインが慌ててなだめに入る
「姐さん!
カジノ!
カジノ再開ですから!」
「あーもうなんなのこいつら!!」
ミネルバはミネルバは
愛用のショットガンで
何度も何度も撃ち続けた
「何ですか急に!?」
朝一でナインがミネルバに会うとそう告げられた。
「イザナミに脱皮の兆候があるんだよ」
「でもイザナミはもう過去に脱皮してるじゃないですか」
「どうやら複数回脱皮の種みたいだ
イザナミは元は野良ドラゴンだからね
素性も含めまだまだ分からない事が多いんだよ」
本来ドラゴンの寿命は種族や交配により違いはあるが
少なくとも100年から200年は生きる生き物だ
その長い寿命の中でドラゴンは成竜する際に一度だけ脱皮をする
複数脱皮するドラゴンは稀である
ちなみにその鱗や皮は硬く頑丈で軽量という事もあり
装備品としての需要が高い
ナインの来ている黒いジャケットもや脛当てなども
イザナミが脱皮した時の物を加工して使っている
そのドラゴンの脱皮をスムーズに進めるためには
温浴が効果的という事は
研究により判明している
「分かりました
イザナミを温泉に連れていけばいいんですね」
「私も行く」
「いや
俺だけで大丈夫です」
「というかうちの従業員も連れていく
最近忙しかったからね
ねぎらいも兼ねた社員旅行だ」
「それは別に行ってもらえればいいかと……」
ナインは分かっていた
ミネルバと旅を同伴するという事は
厄介事が大量に降ってくるという事を
「ナイン
お前もういい年なんだし
そろそろ身を固めたっていい時期じゃないか
何ならうちの従業員紹介してやっても」
「何言ってるんですか姐さん
大事な人ができたって手紙で送ったじゃないですか」
「手紙だぁ?
あんたねー
うちに日にどれだけの手紙が来ると思ってんのよ
世界中から数千数万って来るんだよ
そんなの読んでないに決まってるでしょうが」
「いや
読んでくださいよ
せめて元団員の連絡くらいは」
ミネルバがタバコに火をつけ
質問を続ける
「で
どんな娘なのよ
まさか男?」
「女の子です
いい娘なんですから」
ナインはマリーから預かっている銃である
ワイルドターキーを出してミネルバに見せた
「なんだい
そういえばラッキーストライクはの片割れは?」
「彼女と交換をしました」
「いいのかい
ライじいさんの遺品だろ」
「まだ生きてますって!
ここ来る前に寄ってきたんだから」
「生きてるのかい
最近フルゴラの定期診察に来ないから
てっきり死んだものだと思ってたよ」
「それは
ライじいが姐さんを苦手で……」
「なんだって?」
「いえ
なんでもないです」
ミネルバはグラスに酒を注ぎ
一口飲んでからナインに言った
「連れてきな
私がチェックしてやるよ」
「彼女をですか?
何言ってるんですか
それに彼女は旅をしてるんで無理です」
「旅だぁ
なんでだい
仕事は貿易商かなんかかい?」
「流れの傭兵で
今は兄の仇の元トランプのメンバーを探してます」
「なんだいそりゃ
私の所に来たら勘違いだろうと返り討ちにしちまうよ」
「だから手紙を書いたんじゃないですか
殺さないでくださいって
それに彼女が探してるのはスペードのメンバーらしいから
姐さんの所には来ないと思います」
「仇ってのは誰だい」
「それが分からないから
真相を突き止めるためにも旅をしてるって話ですよ」
「まったく
あのナインにも恋人とはね
私はてっきりアルマといい仲になると思ってたんだけどね」
「アルマ?
なんでですか」
「あいつももう腕に関しちゃ一人前で
いい加減一人立ちさせなきゃって思ってんだけど
相変わらず私以外の人間の前だとろくに会話もできないだろ」
「らしいですね」
「そうなんだよ
でもあんたとは普通にしゃべれるじゃないか」
「なんか俺にもよくわからないんですけど
ドラゴンの声が聞こえる人間となら話せるって言ってますよね
アレどういう意味なんですか
アルマに聞いてもよくわからなくて」
「あんた
イザナミの気持ちわかるかい?」
「まぁなんとなく
アルマみたいに会話は無理ですけど
そろそろ付き合いも長いですし」
「そうじゃないんだよ
お前たちは初めから会話をしてた」
「なんですか
それ」
「分かったよ
少し話してあげる」
「イザナミは私が捕まえた事は知ってるね」
「それは聞いてます」
「連れ帰ってはみたものの
あの子は誰からも食べ物を受け取らなかったんだ
さらに団の誰が乗っても全力で振り落としてね
ドラゴン乗りとして世界有数の私たち団の誰一人として乗れなかった
自信満々で臨んだテンピーすら落とされた時は
そりゃ笑ったもんだ」
「団長ですら」
「まぁ
そんな事より
私は何も食べないこの子の事が不憫でね
どこか静かに暮らせる森を探して放そうかとさえ考えていたんだ
そんなある夜さ」
「竜厩舎に夜なのに明かりがついててね
誰かの消し忘れかと思って見に行ったら
あんたがイザナミと話しながら
あんたが食べてた物をイザナミが食べるのを見たのさ」
「俺が?
覚えてないな」
「だろうね
あんたも幼かったから
それでイザナミはあんたの相棒竜にってテンピーに言ったんだ
アイツは猛反対だったけどね
お前がイザナミに殺されるって」
「それで?」
「押し切って乗せてみたら
静かなもんでね
まるで母親にのる子供に見えたよ」
「そんな事が」
「実は初めてあんたがイザナミと話してる夜の様子は
アルマも一緒にみてたんだよ
その時初めてアルマが笑ったんだ」
「なんでですかね?」
「自分と同じ人間に会えた喜びじゃないかなって
私は思ってるけど」
灰皿にタバコを押し付けミネルバが立ち上がる
「無駄話はこれくらいでいいだろ
さぁ温泉に行くぞ!」
「行くところは決めてるんですか」
「決まってるだろ
スパ・カジノロワイヤルだよ」
こうしてナインの困難極まる旅が始まった。
スパ・カジノロワイヤルとは
ホテルとスパとカジノの一体型の複合施設であり
ミネルバは年に一度はこのカジノに来て
日ごろのストレス発散をしている
結局社員旅行は20人近くの大所帯になった
各々が自分のドラゴンに乗り
療養で連れて行くドラゴンと共に
ちょっとしたキャラバン隊の様相だった
「ごめんナイン
多分色々起こると思う」
「大丈夫
姐さんからの厄介事は慣れっこだから」
道中ナインとアルマは並んで進んでいた
アルマもミネルバとの関係が長いため
この旅が平穏無事に終わるなどこれっぽっちも思っていなかった
「イザナミに聞いたけど
ナイン恋人できたの?」
ぶっ!
ナインは突然の質問に飲んでいた水を吐き出した
「いきなりだな」
「いや特に
話す事もなかったから」
「それでいきなりこの話題か」
しかしイザナミとアルマは静養中に何の話をしてんだ
しかも結構込み入った話もしてるし
「そう
大事な人ができたよ
マリーって娘だ」
「どんな子(ドラゴン)に乗ってるの?」
「キリンジって名前のドラゴンで
麒麟種と言ってたな」
「見てみたい
今度連れてきて」
「分かったよ
いつかね」
アルマは人にはあまり興味を持たないが
ドラゴンへの好奇心が強すぎる
その対人コミュニケーション能力の問題と相まって
見た目はカワイイのに変人扱いされるケースが多い
「でもイザナミがね
お姫様ともいい感じだったのにって」
「もう何の話してんだよ」
「ガールズトーク」
「いや確かにイザナミは雌だけど
人とするのがガールズトークなんだよ」
「だって人と話すの嫌い」
まったく
キャラバン隊が二日ほど進んだところで
お目当てのカジノの街に到着した
辺り一面荒野なのだが
このカジノが複数あるエリアだけは
派手なネオンやら照明やらできらびやかな世界だ
「なんだって!
カジノが封鎖中だぁ!!?」
「あのミネルバ様
他のお客様のご迷惑になりますので
もう少しお声の方を……」
「やってないカジノに
他にどんな客がいるってんだい!」
カジノのカウンターにてミネルバがカジノのオーナーといきなりやりあう
着くなり早速の事件である
話を聞くとこうである
なんでもある怪盗団が
このあたりのカジノから金庫の金を奪い続けており
各カジノは店を封鎖
奪われたカジノはその金の奪還
まだ襲われていないカジノはその防衛対策に追われ
営業どころではないらしい
「ふざけるんじゃないよ!
私はここでのストレス発散のみを生きがいにしているんだ
さっさと開けなさいよ!」
「ミネルバ様は上得意のお客様ではございますが
生憎と今は本当に取り組み中となっておりまして」
このホテルは唯一ドラゴンも入れる大型浴槽を完備し
カジノも最大規模を誇っていたため
ミネルバは常にここを利用しており
今回も当然使うつもりだった
幸いまだ怪盗団には襲われていないが
防衛のために全神経をとがらせていた
「分かったよ
私たちがその怪盗団をぶっ潰してやる
そしたら即営業開始でいいね!」
「それはこちらとしても
願ったりかなったりではありますが」
「話は決まりだ
ナイン!
どうにかしな!」
やはり来ましたミネルバの無茶ぶり
アルマがナインの肩をポンと叩く
分かってはいた
そう来るだろうなと思っていたナインは直ぐに情報屋に
ミニ竜メールを飛ばした
ナインは昔所属していた傭兵団を壊滅させた裏切者を探し出すため
表社会と裏社会の両方に情報網を築いていた
ただしその情報網の維持にはお金もかかるし
たまに汚れ仕事と引き換えという事もあり
色々と大変だった
「とりあえず探りを入れてみますから
姐さんたちはゆっくりと静養していてください」
「さっさと情報をあつめるんだよ」
ナインの言葉にミネルバたちはスパにて英気を養いに向かった
翌日
ある情報屋から有力な情報が届く
この一帯のカジノを【山鼠団】という賊が荒らしている事
その賊は複数の土竜種のドラゴンを抱えており
土中にトンネルを掘り
地下の金庫にたどり着くという手口を繰り返していた事
カジノ経営は実際マフィアが経営している事が多く
その各々が対立しているため
他からの情報が入りにくいという状態
その為
どんな手口でやられたかの共有がされておらず
賊にまんまと同じやり方でやられ続けていた
ナインは情報網で丸裸にされた山鼠団を
「ネズミってよりモグラだろ」
とぼやきながらその壊滅計画を立てていた
そんなナインの所にミネルバたちが戻って来た
中には社員旅行以外のメンバーも混じっていた
「よおナイン
相変わらずかたき討ちっつ~陰気な日々かい?」
「ペニーさんじゃないか
こんなところで奇遇
って言うか
そりゃそうかここカジノだもんね
あなたが居ても不思議じゃないか」
この女性の名前はラッキー・ペニー
元トランプ傭兵団でナンバーネームはセブン・ダイヤ(7♦)
ダイヤのグループは金銭と依頼の管理がその主業務であり
ほぼ全員が真面目な性格をしていたが
このペニーだけは例外
ギャンブルがこの上なく好きでしかもすこぶる運がいい
さらに戦場で運がよく
幸運にも生き残るというエピソードが
日に日に増えていった
終いにはラッキーアイテムよろしく
彼女を自分の戦い連れて行きたがる人間が増えた
しかし戦いよりもギャンブルが好き
というか戦いが嫌いという性分のため
戦場に行く事自体を嫌がっていた
ギャンブルが好きという点でミネルバとは気が合った
「スパでゆっくりしてたらペニーと会ってさ」
「ナイン
さっさと賊を潰してくれよ
カジノがとまってちゃ
私は水の無い魚みたいなもんだよ~」
「なら協力してもらいますよ
場所はわかったんで」
「私が戦い嫌いな事
お前だってしってるだろ」
「何言ってんですか
カジノで遊びたいんでしょ
なら働きなさい」
「ミネルバぁ
ナインが生意気言うよ~」
「いやお前も働けよペニー」
ミネルバがペニーの頭をはたいた
そして
ナインは賊壊滅の計画を皆に話した
「荒野の中にあるこのカジノタウン
この街の西方約4kmの所に小さな丘がある
昔そこには中世からの魔術を使う連中の墓があるとかで
地元の人間は立ち寄らない
そこに小さな祠があるらしく
山鼠の連中はそこを根城にしてるらしい」
「そこで連中を皆殺しにすればいいわけね」
「まず姐さんのドラゴンのオッドルで先鋒射撃をしてもらって
蜂の子を散らした連中を個別撃破
その流れでいいですか?」
「やだ」
「え
何がすか
姐さん」
「ストレス発散にならない」
「いやあの
これが一番楽で被害の出ない作戦なんですけど」
ミネルバは
愛用のショットガンであるベルヴェデールRM11のスライドをひき
言った
「堂々と乗り込んで皆殺し」
「私はナインの楽な作戦でいいかな~と」
ペニーがそーっと手を上げて進言するが
「堂々と乗り込んで皆殺し」
すぐに引っ込める
結局
少数精鋭という形で
ナインとミネルバとアルマとペニーの4人のみで襲撃する事になった
「本当に私も行かなきゃだめ~?」
とペニーは最後までダダをこねたが
はー
ため息をついてから
ナインは全員に合図を送る
全員が祠の壁に向かって一斉掃射
壁が大きな音を立て崩れ落ちる
しかしそこには誰も居ない
「ちょっとナイン
どういう事?」
ナインは慌てて祠に入る
すると祠にはドラゴンでもゆうに入れる
大きなトンネルが掘られているのを見つける
イザナミから降りて地面に耳を当てる
「ちょっとナイン~」
「しっ!
距離は結構あるな
あいつら次の獲物を狙いに地中を進んでる!
後を追う」
地面のトンネルを進むと道は4つに分岐していた
今まで襲われたカジノ3つで
穴が4つ
一つが今回の当たりということになる
ちょうど4名だったので4人がそれぞれ穴に入る事となり
じゃんけんで勝ったものから穴を選んだ
最初に選ぶのはペニー
賭けに強いがじゃんけんも強い
「あ~あ
どうせ私が当たりくじ引くんだよ」
皆もその予感があったが
それはそれで面白そうと黙っていた
「じゃあ当たりを引いた人はドラゴンの咆哮で合図
それを聞いた他の者たちは直ぐに合流して敵を殲滅
という流れで」
数分後
皆の予想通り
ペニーのドラゴンの咆哮が聞こえた
3人は慌てて分岐点まで戻り
ペニーの穴を進んだ
現場についてみると
賊は岩盤が崩れ生き埋めになり息絶えていた
ミネルバはタバコに火をつける
「何があったの」
ハハハとペニーが笑って
「なんか地盤沈下が起きたみたいで
賊が勝手につぶれて死んだみたい
いや~ほんとラッキ~」
やっぱペニーの幸運力はやばい
とナインが思っていた横で
ミネルバがプルプル震え出した
「で
私の憂さ晴らしは
どこでやれと」
ナインが慌ててなだめに入る
「姐さん!
カジノ!
カジノ再開ですから!」
「あーもうなんなのこいつら!!」
ミネルバはミネルバは
愛用のショットガンで
何度も何度も撃ち続けた
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