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 外伝2 オルフェの毎日

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狼人族の女王であるオルフェは、フェンルリという極寒の地から、一族を伴ってこの赤獅子国にやって来た。
オルフェの毎日の仕事は赤獅子国西側の警護だ。
警護の仕事は休日を作れないため、ローテーションを組んでこの任に当たっていた。


狼人族は狼と人の姿になれる。
指の先にある爪は十分に武器となるのだが、人の姿の時、拳を握って指の付け根から出る爪、正確には骨が伸びた物が狼人族最大の武器だ。

オルフェの爪は長く固く、鋼鉄をも切り裂く。身体能力の高さもあるが、この爪こそがオルフェを一族最強としている。
だが族長を決める闘技大会で、オルフェはこの爪を使わない。一族を傷つける事には使わないのだ。一族外の敵には容赦なくこの爪を使う、敵には容赦なく、敵には情けが無い。オルフェは一族の皆から慕われている。

赤獅子国でそれぞれの道を見つけた者がいる。
カタオカは漁師としての生活を選び。
レイルとライリーの兄弟は大工の道に進んだ。
ダバとスーの二人は赤翼隊へと入隊した。

カタオカの漁の一度付き合った事があったが、オルフェはひたすら船の上で吐いていた。
どうもこの船と言うのが苦手だ、自分で泳いだ方が楽だとすら思った。漁では全く役に立たなかった。
「もう来ない方がいいと思います」とカタオカはオルフェを気遣い言った。

レイルとライリーの大工仕事に付き合った事もあった。
木材の加工でレイルとライリーの爪は大いに役に立ったが、オルフェは力が強すぎて木材を粉みじんにしてしまう。
二人からはもう来ないでくださいと釘を刺された。

それぞれの道をみつけた事に、オルフェは喜びを覚えると同時に寂しさも感じていた。
また、戦いにおいては絶対的な力を持つ中、生活において己の無力も少し残念に思ってもいた。


赤翼隊の琴は、狼人族と「乱取り」という訓練でよく来ている。
たまにオルフェが相手をしてやるが、正直まだ実力に雲泥の差がある。だが琴はこの訓練を楽しんでいる様だった。
和人、狼人族その垣根など全く感じない、オルフェはそんな琴が好きだった。
琴はロシェと仲が良いみたいだった。二人が良い感じになればとオルフェは思っている。


オルフェは週に何度か14歳以下の者を連れた遠足に行く。
メンバーはミ、シルヴィ、ヨイ、カイヨ、リオンの5人だ。リヨンだけ男の子で後は女の子。
遠出をして足腰と体力を鍛え、遊びの中で戦闘と狩りの能力を鍛えるのが目的だ。
年長のコアバからはオルフェが自らやらなくてもと言われているが、オルフェ自身がこの活動を好んでいるのだ。
先日このメンバーに3人の子供が加わった。マウとタノン、ローイだ。
生まれたばかりだが、皆メンバーについてこようと必死だった。

子供たちがじゃれている姿を見るのがオルフェはどんな時間よりも好きだった。
オルフェに心酔するシルヴィが質問をしてきた。
「女王様はいつ子供を産むの?」
「私は自分より強い相手としか子供は作らない」
「じゃあ氏康様と子供を作るの?」
「氏康はミリアの事が好きだからな」
「ミリアさんが邪魔?」
「いや、ミリアは良い奴だ。だから嫌いにもなれん」
「そっか、女王様かわいそう」
「やめないか、私は全然かわいそうではないぞ。一族の子供たちはどんどん増えている。こんな幸せな事は無いぞ。キャハハハ」
夕日がきれいに空を赤く染める。
「おーい、もうそろそろ家に帰るぞー!」
オルフェの声に皆集まって来た。
その一つ一つの瞳は明日への希望で輝いている。
オルフェはその瞳を見るたびに、一族皆の幸せのために明日から頑張ろうと誓うのだった。
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