上 下
5 / 33

  幕間の物語1 黒龍ジンライ

しおりを挟む
大華大陸は「爽王朝」の下、人と神獣が共に生き、繁栄を遂げていた。
人の営みを神獣が見守り、人々のために神獣が自然を制し護っていた。
一方、人々は神獣のために祈り、それが神獣の力となった。

しかし、その平安の時も長くは続かない。
北部戦闘騎馬民族である炎一族が爽王朝を強襲。
わずか1週間ほどで王朝を打倒し、新たに「炎王朝」を築いた。

周辺諸国も平定し終えた時、炎の皇帝である炎武帝へと【招待状】が届く。
書簡にて記載された【世界の根幹】と名乗る者からのメッセージは次の通りだった。

「闘いに勝利すれば望む物を与えよう」

疑り深い炎武帝はおいそれをその内容を信じたりはしなかった。
また、未だ神獣信仰を続ける一部の民が忌々しかった。

そこで炎武帝は神獣信仰を全面的に廃して、火を崇める拝火教を推し進め、人々に強要した。そして武力により神獣をもその支配下におさめようとたくらんだ。

炎武亭は配下の者たちに神獣を使役した者にこの闘い参加する名誉を与えると宣言した。
武勇を誇る多くの者が神獣をとらえるために聖山へと向かった。


当時の聖獣の長は神龍であり、この時代は神龍山にメイライという神龍が、生まれたばかりの子龍ジンライと共に過ごしていた。
この子龍ジンライはよく人里におり、人の子供たちと遊んだり、時折大人たちに頼み事をされたりしていた。母龍より人間とは仲良くするよう言われており、ジンライもまた人間が好きだったために、里ではジンライと人間たちは素晴らしい時を過ごした。特にジンライはその背に人間の子供たちを乗せ風を走るのが好きだった。人々の笑顔が自分の力になる事を本能的に理解していた。

ジンライは子龍でありながら既に全長5mを超える巨体で、他の聖獣よりも強い力をもっており、雷を思いのままに操る事が出来た。硬い鱗は人の刀程度では傷を付けることすらままならなかった。単純な戦闘力で言えば数万の兵力を一瞬で塵にするほどの力は持ったいたのだ。


ある日炎王朝の手の者たちがその里に来た。
親龍メイライが帝の下へ向かったため、子であるジンライすぐに参朝ように伝えられた。
母龍が行っていると聞いたので疑うことなくジンライは朝廷に向かった。
「帝」の事は里の人間たちから聞いていたが、実際に会った事はなかったしよく分かってもいなかった。


朝廷に着くと槍を持った兵士たちに囲まれ、龍使い名乗る者から母に会いたければ自分に従う様にと言われた。これから向かう「闘い」に勝利を重ねれば親龍に会えるように取り計らってやるとも。
ジンライはこの人間たちを蹴散らす事などたやすい事は分かっていたがここはおとなしく従う事にした。人間とは仲良くするように母龍から教えられていたし、なにより母龍の身に何かあったら事だからだ。

ジンライは母龍に会いたい一心でこの闘いに参加する事となった。


だが、その先には一つの不幸が待っている事をまだジンライは知る由もなかった。
しおりを挟む

処理中です...