39 / 79
霊媒師
しおりを挟む
霊媒師。霊を呼び寄せたり、霊を成仏させたりするのを生業としている者。霊と人とをめぐり合わせることもできると聞く。人に霊を憑依させる番組を過去に何回か観たことがあるが、僕は信じなかった。番組制作側が仕組んだヤラセだとしか思わなかった。占いに関しても同様、僕は信じてはいない。月額制の占いサイトをネット上で見かけるが、そんなものにお金をかける気にはならなかった。
いま、隣にいる、自称霊媒師、志摩冷華は、幽霊はいると言った。そしてそれを信じるも信じないも個人の勝手とも言った。しかしこの<キヅキの森>に、霊がいると聞くと、なんだか真実味があった。現に僕の前に、不可解な現象が起こっている。森が僕を閉じ込めたり、巨大なメガホンが出現したり消えたり。僕の目の前で姿を消した末永弱音も、彼女が持っていた<キヅキの木槌>もそうだし、そして、まるで僕の過去をともに過ごしてきたかのように、僕の過去が書かれた本<懐>。それらは実際僕が目にしてきた事実。そう、自ら目にしたものは事実として受け入れることが出来ないことはない。しかし幽霊は未だ見た事が無い。いや、幽霊と思える人物が、最近僕が会った人物のなかにいた。
『こないだ、このブックカフェにいた末永弱音っておばあさんは、ひょっとして幽霊なのですか?』
僕は原稿用紙にそう書いて、志摩冷華にそれを見せた。すると彼女は、目をぎょろつかせた。
『どうしてそう思うの?末永さんはまだ死んでなんかいないわ。最近来てないけど』
『この間、森の中で、僕の目の前で突然姿を消したので』
志摩冷華の手が震えているのが見えた。動揺している。僕が書いた文章をみて、志摩冷華はさっきまでと明らかに様子が違う。
『その、末永さんが消えた場所ってどこ?教えて!』
『わかりません。真っ暗でしたし、僕はそのとき森で迷っていたんで』
志摩冷華は突然立ち上がり、さっきまで書いていた小説の原稿を鞄にしまい、玄関から出て行った。何がなんだかわからないまま、僕はすぐあとを追った。
「ありがとうございました」
僕らの様子などおかまいなしに感情のない声で、店の外にいた咲谷さんは言った。
僕の腕時計は五時三十七分を指し示していた。店の外はまだ明るかった。
「末永さぁん!何処にいるのぉ!?末永さぁん!」
志摩冷華は叫んだ。僕は初めて彼女の声を聞いた。大人の女性特有の、色気のある声だった。彼女はしばらく、森の中で末永の名を叫んだ。叫び続けた。
いま、隣にいる、自称霊媒師、志摩冷華は、幽霊はいると言った。そしてそれを信じるも信じないも個人の勝手とも言った。しかしこの<キヅキの森>に、霊がいると聞くと、なんだか真実味があった。現に僕の前に、不可解な現象が起こっている。森が僕を閉じ込めたり、巨大なメガホンが出現したり消えたり。僕の目の前で姿を消した末永弱音も、彼女が持っていた<キヅキの木槌>もそうだし、そして、まるで僕の過去をともに過ごしてきたかのように、僕の過去が書かれた本<懐>。それらは実際僕が目にしてきた事実。そう、自ら目にしたものは事実として受け入れることが出来ないことはない。しかし幽霊は未だ見た事が無い。いや、幽霊と思える人物が、最近僕が会った人物のなかにいた。
『こないだ、このブックカフェにいた末永弱音っておばあさんは、ひょっとして幽霊なのですか?』
僕は原稿用紙にそう書いて、志摩冷華にそれを見せた。すると彼女は、目をぎょろつかせた。
『どうしてそう思うの?末永さんはまだ死んでなんかいないわ。最近来てないけど』
『この間、森の中で、僕の目の前で突然姿を消したので』
志摩冷華の手が震えているのが見えた。動揺している。僕が書いた文章をみて、志摩冷華はさっきまでと明らかに様子が違う。
『その、末永さんが消えた場所ってどこ?教えて!』
『わかりません。真っ暗でしたし、僕はそのとき森で迷っていたんで』
志摩冷華は突然立ち上がり、さっきまで書いていた小説の原稿を鞄にしまい、玄関から出て行った。何がなんだかわからないまま、僕はすぐあとを追った。
「ありがとうございました」
僕らの様子などおかまいなしに感情のない声で、店の外にいた咲谷さんは言った。
僕の腕時計は五時三十七分を指し示していた。店の外はまだ明るかった。
「末永さぁん!何処にいるのぉ!?末永さぁん!」
志摩冷華は叫んだ。僕は初めて彼女の声を聞いた。大人の女性特有の、色気のある声だった。彼女はしばらく、森の中で末永の名を叫んだ。叫び続けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
人狼戦記~少女格闘伝説外伝~
坂崎文明
ライト文芸
エンジェル・プロレス所属の女子プロレスラー神沢勇(かみさわゆう)の付き人、新人プロレスラーの風森怜(かざもりれい)は、新宿でのバイト帰りに、人狼と遭遇する。
神沢勇の双子の姉、公安警察の神沢優(かみさわゆう)と、秋月流柔術宗家の秋月玲奈(あきずきれな)の活躍により、辛くも命を助けられるが、その時から、ダメレスラーと言われていた、彼女の本当の戦いがはじまった。
こちらの完結済み作品の外伝になります。
少女格闘伝説 作者:坂崎文明
https://ncode.syosetu.com/n4003bx/
アルファポリス版
https://www.alphapolis.co.jp/novel/771049446/998191115
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
Overlay
栗須帳(くりす・とばり)
ライト文芸
人との関りを避けてきた女子高生の真白。
彼女は人と触れ合うことで、自身の色が変わっていくことを恐れていた。
しかし人は、彼女に関わってこようとする。干渉し、色を重ねようとして来る。
そんな現実な疲れた真白がある日、不思議な出会いをする。
それは彼女にとって、かけがえのない出会いだった。
全6話。毎日17時更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる