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第1話
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弾かれた剣が宙を舞い、少し離れた地面に突き刺さった。
バランスを崩して尻を着く騎士の眼前に、もう一人の騎士の剣が突き付けられる。
闘技場が静まり返った。
試合を観ていた王都民や騎士団員、王室関係者たちが、驚愕で固まった。
勝者を告げる宰相の声が響く。
一転、場内は大歓声に包まれた。
この御前試合の結果をもって勇者に選ばれ、魔王討伐に出発するであろうと誰もが思っていた騎士・アステア。
彼が敗れた瞬間であった。
専用の控え室で、アステアは兜を脱ぎ、そのまま天を仰いだ。
他の参加騎士との間には相当な力量差があるはずだった。
御前試合は、アステアを勇者と認めて送り出すための形式的な儀式。騎士団の中ではそう思われていたはずだ。
負ける要素は何一つないはずだった。
もちろん対戦相手だった騎士・レグルスは、決勝戦に出るくらいなので弱いわけではない。
それでも彼は数多の凡庸な騎士の一人でしかないはずだった。今までもこれといった実績があるわけでもない。
実際、剣を合わせてみても、自分のほうが剣技が上であるとすぐにわかった。
千回戦えば九百九十九回は勝てる。それくらいの差はあると思った。
なのに、負けた。
千回の中の一回を引かれて負けたとしか思えなかった。
「勝利者レグルスが国王陛下より勇者の称号を賜った」
控え室に来た関係者より、残酷な事実が告げられる。
アステアはすべてを失うことになった。
もはや自分は何者でもなく、これからも一生、何者にもなることはない。
幼少の頃から天才と呼ばれ、騎士の資格も最年少で取得した。
今でも剣技は騎士団随一との呼び声が高く、魔法技術も専業の魔術師顔負けと評された。
筆頭騎士として数多の儀式や式典に参加し、この国の騎士の顔として、実績を積み上げてきた。
それを。自分のすべてを。
有象無象の無名騎士が、ただの一戦で奪っていく?
自分の過去の栄誉を奪い、現在の栄誉を奪い。
そして未来の魔王討伐の栄誉、救国の栄誉まで奪う?
そんなことがあってよいのだろうか?
いや、あってはならないはずだ。
しかし過去は、試合結果は、変えられない。
今から覆すことはできない。
ならば、どうする?
「……」
アステアは一つの結論に達した。
――勇者となったレグルスを、社会的に消す。
それしかない。
未来であれば変えられる。
出発前に彼が勇者にふさわしくない人物であるとなれば、自分が勇者に選び直されるだろう。
彼を失脚させよう。
そのためにはどんな手段も辞さない。
アステアはそう決意した。
(続く)
バランスを崩して尻を着く騎士の眼前に、もう一人の騎士の剣が突き付けられる。
闘技場が静まり返った。
試合を観ていた王都民や騎士団員、王室関係者たちが、驚愕で固まった。
勝者を告げる宰相の声が響く。
一転、場内は大歓声に包まれた。
この御前試合の結果をもって勇者に選ばれ、魔王討伐に出発するであろうと誰もが思っていた騎士・アステア。
彼が敗れた瞬間であった。
専用の控え室で、アステアは兜を脱ぎ、そのまま天を仰いだ。
他の参加騎士との間には相当な力量差があるはずだった。
御前試合は、アステアを勇者と認めて送り出すための形式的な儀式。騎士団の中ではそう思われていたはずだ。
負ける要素は何一つないはずだった。
もちろん対戦相手だった騎士・レグルスは、決勝戦に出るくらいなので弱いわけではない。
それでも彼は数多の凡庸な騎士の一人でしかないはずだった。今までもこれといった実績があるわけでもない。
実際、剣を合わせてみても、自分のほうが剣技が上であるとすぐにわかった。
千回戦えば九百九十九回は勝てる。それくらいの差はあると思った。
なのに、負けた。
千回の中の一回を引かれて負けたとしか思えなかった。
「勝利者レグルスが国王陛下より勇者の称号を賜った」
控え室に来た関係者より、残酷な事実が告げられる。
アステアはすべてを失うことになった。
もはや自分は何者でもなく、これからも一生、何者にもなることはない。
幼少の頃から天才と呼ばれ、騎士の資格も最年少で取得した。
今でも剣技は騎士団随一との呼び声が高く、魔法技術も専業の魔術師顔負けと評された。
筆頭騎士として数多の儀式や式典に参加し、この国の騎士の顔として、実績を積み上げてきた。
それを。自分のすべてを。
有象無象の無名騎士が、ただの一戦で奪っていく?
自分の過去の栄誉を奪い、現在の栄誉を奪い。
そして未来の魔王討伐の栄誉、救国の栄誉まで奪う?
そんなことがあってよいのだろうか?
いや、あってはならないはずだ。
しかし過去は、試合結果は、変えられない。
今から覆すことはできない。
ならば、どうする?
「……」
アステアは一つの結論に達した。
――勇者となったレグルスを、社会的に消す。
それしかない。
未来であれば変えられる。
出発前に彼が勇者にふさわしくない人物であるとなれば、自分が勇者に選び直されるだろう。
彼を失脚させよう。
そのためにはどんな手段も辞さない。
アステアはそう決意した。
(続く)
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