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第2話

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「ねえ先生、やってるソシャゲとかはあんの?」

 左隣に座る生徒・トウヤが極めてどうでもよい質問を投げかけてきながら、ハルトの首に右腕を回してくる。
 彼の右手に握られていたはずのシャーペンは、まだ練習問題を解き終えていないテキストの上で転がっている。

「僕はゲームはやらないよ」
「へー」

 また今日も始まったか――と、彼の腕を首からはがすが、その腕はそのまま引っ込まず。
 反対側の手も伸びてきて、今度はハルトの両わきをコチョコチョとくすぐってくる。

「くすぐったいからやめてって」 

 彼の行為はますますエスカレートしてきている。
 わき腹をくすぐられるだけなら、まだいいのだが……。

「こ、こら」

 その流れでそのまま前のほうにも手をやられ、ワイシャツ越しに胸を触られることが多くなった。

「……っ!」
「よーし、発見」

 そしてすぐにこうやって、その指が突起を捉える。
 ふだん人に触られることなどない部位。だがなんとか声が出るのだけは抑えている。

「左側は胸ポケットあるから当てるの難しいんだよなー」
「やめてって言ってるでしょ」

 ハルトは上半身をくねらせながら彼の手をつかみ、遠ざけた。
 コシがありながらもサラサラな髪が生える頭を、ポンと叩く。
 そうするとそこまでで止まり、また問題を解き始めてくれるはずだった。

 しかし。
 今日はそこで終わらなかった。

「あっ」

 ふたたび伸びてきた彼の手が、今度はわきでも胸でもなく……股間に。
 狙ってやったとは思えないが、一撃で陰茎の先を握られてしまった。
 薄い夏物スーツ越しの感触。しかも指先がちょうどカリクビの部分を擦り、思わず声が漏れ出てしまった。

 ハルトは慌てて魔の手をつかんで強く引きはがすと、周りを確認した。
 もちろん今の声が聞かれなかったかどうか、という心配だった。

 他のブースでは……何事もないように授業が続いている。
 若干の安心とともに、強めに彼の頭を押さえた。

「いい加減にして。怒るよ」

 テキストのほうへと顔を向けさせる。

「わかったって」

 彼がシャーペンを手に取った。
 その顔は、笑いながらもしかめっ面というところだ。ハルトの指がこめかみにめり込んだらしく、少し痛かったようである。

 入塾前のトウヤの学校の成績は、中の中くらい。つまりいたって普通だと、塾長からは聞いていた。
 だが自分が担当してからは成績が急に伸びており、夏期講習の終わりに実施された塾内試験の結果を見る限り、最低でも自分が担当している国語と数学は中の上くらいの実力にはなっていると思われた。

 説明するとハイハイと言って理解するし、問題を解かせても正答率が高い。ハルトが出した宿題も忘れないでやってくる。
 そう。基本的にはよい生徒……いや、非常によい生徒なのである。
 こういう“懐きすぎ”がなければ完璧なのに――といつもハルトは思う。

「でも先生、今ちょっとテンパったよな」
「当たり前でしょ。ホラ、早く問題を解く」
「はーい」

 しかしその生意気な笑顔を見る限りでは、直りそうな気はしなかった。



(続く)
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