男子高校生を生のまま食べると美味しい

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

文字の大きさ
29 / 46

第28話 一緒にやってみたい

しおりを挟む
 毎年内定式が終わった後は、内定者たちで食事に行っている。
 会社として正式にそう決めているわけではないけれども、ほとんど強制参加のようなものだ。
 実際、店の予約もしているため、出ませんと言われたら困ってしまう。

 この内定式後の「懇親会」、だいたいどの会社でもある。
 だが世間の学生たちには、実に評判が“悪い”ものらしい。

 緊張してメシがまずそう。
 めんどくさい。
 何を話して良いかわからない。
 早く帰りたい――

 ネットではそんな声が多い。

 ただし、うちの会社の場合はそんなに堅苦しいものではない。
 豪華なホテルで立食形式なんていうこともなく。
 偉い人も出席しないし、先輩社員がわらわら湧いたりもしない。

 本当に単なるお食事会だ。
 内定者たちにも「構えなくて大丈夫」と伝えている。

 大昔は役員や部長クラスの人たちも来て、ガチガチの雰囲気でやっていたらしい。
 しかし私が新卒で入った頃には、すでにその慣習はなくなっていた。
 役員や上級管理職もプレーイングマネージャーとしてバタバタと働く時代になり、スケジュールを合わせることが困難になったためらしい。

 というわけで、今回も社内の人間は人事担当者のみ。
 つまり私だけがお世話役兼会計役として付いていく。
 ほぼ内定者だけの飲み会のようなものだ。

 もちろん内定者はお互いが他人同士だったわけなので、緊張しないわけではないだろう。
 だが重役や先輩社員が多数参加する会社よりは、圧迫感が圧倒的に少ないことは疑いない。



 使っている店は毎年同じ。
 会社のすぐ斜め前のホテルの中にある、フレンチとイタリアンのレストラン。
 私たち六人が入店すると、店員さんがすぐにやって来て、個室になっている六人用のテーブルに案内される。

 店内を優しく照らす橙の光。
 オフィスビル街の無機質な喧騒が嘘のような、温かみと落ち着きのある空気。
 このホテル自体は超高級というわけではないが、とても良い雰囲気の店だ。

 例年、みんなテーブルに着いてもすぐには座らない。
 私は入口でみんなを先にお店の中に入れ、最後尾についていく。
 なので、だいたいみんな立って待っていて、私が着くと上座をすすめてくる。
 ただ、この食事会の主役は内定者であるため、私はその旨を説明し、今回だけはという断りを入れて下座に座るようにしている。

 正直こういうの、めんどくさいんだけど。
 と個人的には思ってしまう。
 好きに座ればいいやん!
 私は割とそう考えてしまうほう。

 けれども、私の立場は人事担当者。
 あまり崩していくと、その先で大変になってしまうのは内定者たちだ。

 さて、今回も……。
 ってダイチくんもう座っとるやん!
 あ、一番入口に近い下座に座っているから、×ではなく△か?

 でも、とりあえずそこはマイシート!
 恥をかかせて悪いけど突っ込むぜ!

「こら」

 アオイヘッドロック!
 右手をダイチくんの首に回し、脇に抱えるように締め上げる。

「ふぐっ……な、何です?」
「先に座っちゃだめだよー?」
「すみません。そうですよね」
「部活でも先輩に先に座らせるでしょー?」
「先輩はいませ……あ、でもいたら先に座ってもらいますね。ごめんなさい」

 ――!?
 これは初耳だ。

「え? 先輩はいなかったの?」
「はい。寂れていた部だったので。後輩はたくさんいますが」
「へー。そうだったんだ」
「あ、あの、アオイさん。そろそろ離してもらえますと。ちょっと胸が当た――」
「ぎゃぁ! ごめん!」

 慌てて腕を外す。
 ハッとなって周囲を確認すると、大卒組が固まっていた。
 が、唯一の女性内定者・コイケさんが先頭を切って軽く吹き出し、笑いながら突っ込んできた。

「ははっ。二人って昔から知り合いだったんですか?」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 私は人事担当者だけど、人事権とか一切ないから、楽にしてていいからね――
 例年、内定者たちの緊張を解くために、そう言っていた。

 だが先ほどの一件のおかげで、今回はそんなことを言う必要もなくなったようだ。
 みんな最初の乾杯や自己紹介から割とのびのびとしていた。

「長兵バイオ大学バイオハザード学部のヤマモトでぇす。趣味は動画配信かなぁ? ずっとカリカリ動画で配信してたんですけどぉ、内定記念に上も下も脱いだら配信中にBANされてぇー。今はヨウツベ動画でぇー」
「落葉大学健康プロデュース学部のコイケです。本当は主婦になるつもりで就職するつもりなかったんですけど、婚約破棄されて――」
「東京本来大学モチベーション行動科学部のカミナリと申します。部活は高木部です。趣味は食べ歩きで――」
「寛大の社会安全学部ジョウノウチ。部活は遊戯部や。よろしく頼むで」

 私の正面に座ったらヤマモトくんから、反時計回りに一人ずつ順番に自己紹介が回っていく。
 最後は私の隣に座っているダイチくんだ。
 さすがに少し恥ずかしそうな感じかな?

「佐藤ダイチ。柴崎高校の三年生です。部活は硬式テニス部で――」

「え!?」
「高校生だったんだ!?」
「すごい! 高校生!?」
「ほぇー。確かにえらい若い思うたけど」

 次々と飛んでくる驚きの声。
 うん。やっぱりそんな反応になるよね。

 そしてダイチくんは戸惑いと照れで何とも言えない表情。
 いいね!
 私はニヤニヤしながら本人と周りの反応を見守……

「硬式テニス部かぁ。なんか華やかそうでいいな~」

 ……るはずだったが。
 そのコイケさんの言葉に、思わず反応してしまった。

「意外と社内にテニスやる人っていないんだよね。私もやってみたいな」
「あら、アオイさんもテニス興味あるんですか~?」

 コイケさんにすぐコメントを拾われてしまった。

「ソフトテニスなら高校までやってたからね」
「あ、わたしもソフトテニス経験者ですよ。同じですね!」

 しまった。
 ダイチくんの硬式テニス部談義が聞けそうな流れだったのに。
 私が話を奪ってしまった形に。

 むむむ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...