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第1話
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『赤坂、そろそろ時間だぞ』
少し大雑把な口調だが、涼しくてクリアな声が聞こえてきた。
ベッドのヘッドボードの上に置かれていた目覚まし時計からだ。
「うーん、先輩、あと五分」
赤坂ミノルは、ベッドではなく床に敷いた布団の中で、寝ぼけたままそう言った。
『赤坂、そろそろ時間だぞ』
すぐにまた同じフレーズが聞こえる。もちろんこれも目覚まし時計の音声アラームである。
「んー、もうちょっと」
ミノルはムニャムニャとそう言って、寝癖でボサボサの頭まで布団をかぶった。
すると、声はいったんとまった。
ところが。
「赤坂、起きろ」
少しフレーズが変わったうえに、声の出どころも、横向きで寝ているミノルのすぐ目の前になった。
その不自然さに、ミノルは気づかなかった。
いや、気づいたところでもう手遅れだったわけだが。
「いや先輩、もうちょっと寝てたいです」
「いや、とりあえず起きろって」
「んー、もうちょっとー……」
ミノルは音声アラームをとめようと、目をつぶった半眠り状態のまま腕を高く挙げ、上から下に振り下ろした。
だが手のひらには、目覚まし時計のボタンの感触ではなく――。
何やら硬い棒が当たった感触。
「……ん、あれ?」
ミノルが目を開けると、布団の横であぐらをかいて座っていたのは、さほど乱れていないサラサラな短髪の男。
サッカー部の一つ先輩・中野ハヤトだった。
振り下ろしたミノルの手は、彼の股間に命中していた。
――あ。
その瞬間、ミノルはすべてを思い出した。
高校サッカー部の先輩・中野ハヤトに、勉強を教えてほしいという名目で泊まりに来てもらっていたことを。
そして自分は床で寝て、彼にはベッドで寝てもらっていたことを。
目覚まし時計の設定を変更し忘れて、音声アラームが彼の声のままになっていたことを。
「なんで目覚まし時計の声が俺の声なんだ?」
ハヤトの手には、その目覚まし時計。
ミノルは立ち上がっていないのに、全身から血の気がサーっと引いたような気がした。
(続く)
少し大雑把な口調だが、涼しくてクリアな声が聞こえてきた。
ベッドのヘッドボードの上に置かれていた目覚まし時計からだ。
「うーん、先輩、あと五分」
赤坂ミノルは、ベッドではなく床に敷いた布団の中で、寝ぼけたままそう言った。
『赤坂、そろそろ時間だぞ』
すぐにまた同じフレーズが聞こえる。もちろんこれも目覚まし時計の音声アラームである。
「んー、もうちょっと」
ミノルはムニャムニャとそう言って、寝癖でボサボサの頭まで布団をかぶった。
すると、声はいったんとまった。
ところが。
「赤坂、起きろ」
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その不自然さに、ミノルは気づかなかった。
いや、気づいたところでもう手遅れだったわけだが。
「いや先輩、もうちょっと寝てたいです」
「いや、とりあえず起きろって」
「んー、もうちょっとー……」
ミノルは音声アラームをとめようと、目をつぶった半眠り状態のまま腕を高く挙げ、上から下に振り下ろした。
だが手のひらには、目覚まし時計のボタンの感触ではなく――。
何やら硬い棒が当たった感触。
「……ん、あれ?」
ミノルが目を開けると、布団の横であぐらをかいて座っていたのは、さほど乱れていないサラサラな短髪の男。
サッカー部の一つ先輩・中野ハヤトだった。
振り下ろしたミノルの手は、彼の股間に命中していた。
――あ。
その瞬間、ミノルはすべてを思い出した。
高校サッカー部の先輩・中野ハヤトに、勉強を教えてほしいという名目で泊まりに来てもらっていたことを。
そして自分は床で寝て、彼にはベッドで寝てもらっていたことを。
目覚まし時計の設定を変更し忘れて、音声アラームが彼の声のままになっていたことを。
「なんで目覚まし時計の声が俺の声なんだ?」
ハヤトの手には、その目覚まし時計。
ミノルは立ち上がっていないのに、全身から血の気がサーっと引いたような気がした。
(続く)
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