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第5話
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後ろから抱き着いたまま、彼は何も言わなかった。
ぼくは、何も言えなかった。
ぼくはテレビ画面を見ているはずなのだけれども、焦点が合わなくなっていた。
コントローラーを握っている両手も動かない。CPUキャラに自分のキャラが一方的に殴られている。
やっていた格闘ゲームはゲームオーバーになった。
そのタイミングで、彼の腕にギュッと力が入った。
ぼくの首、背中、腹部がさらに温かくなって、そこで初めて、ぼくは自分の体に力をガチガチに入れていたことに気づいた。
体をあずけるように、スッと力を抜いた。
彼に包まれたまま、ただ時間だけが流れた。
やがて、彼が言葉を発した。
「お前ともっと仲良くなりたいけど、やっぱり漫画みたいにいかないなあ」
「漫画って?」
彼の唇が近い首のくすぐったさ。それを意識しながら、ぼくは聞き返した。
「ああ。よくあるだろ。普段グループも性格も全然違う二人が、すぐ仲良くなって何かを一緒にやるとか」
「あー。あるかも」
「でも、いざ仲良くなろうと思っても、クラスも違ってタイプも違ってってなると、話の盛り上げ方とかよくわかんないんだよな」
「そ、それはぼくも同じというか……」
そう、同じだ。きっとその理由は違うだろうけれども。
ぼくは彼が相手だと緊張するから。彼はそんなぼくの扱いに困っているから。
たぶんそうだ。
そんなことを考えていると、彼は言った。
「佐藤はさ、俺のこと、どう思ってるんだ?」
「えっ!?」
おさまっていた心臓が、またドクっと言った。
「え、えっと、その、あの」
「落ち着けって」
「あっ」
温かい手で、脇腹をくすぐられた。
「あっ、や、やめて」
「落ち着いたらやめるぞ」
「わ、わかったから」
また心臓はおさまっていった。
この体勢が続いていたせいか、後ろから抱えられたこの状態だけではバクバク言わなくなった。
「薬師寺くんは……アイドル、みたいな人?」
「なんだよそれ」
顔は見えないけど、笑っているみたいだ。
「だって、顔かっこいいし、スポーツ万能みたいだし、いつも周りに人いるし」
「えー? そんなふうに思ってたのか。他には?」
「肌が褐色ですごくきれいとか? 日焼けなのか元々濃いのか知らないけど……」
「へー」
彼の腕が、外れた。
そしてぼくの肩をつかみ、ぼくの体を後ろに回転させるように力を入れた。
ぼくも素直に応じ、彼のほうを向く。
「ホレ」
彼はぼくのすぐ目の前で立ったまま、左手でハーフパンツの裾を持ち上げた。
「日焼けだ……」
目が釘付けになった。
学校の体操服の裾の位置と思われるところに、はっきりとした褐色と白色の境目があった。
褐色部分も白色部分も、とてもきれいだった。
「そう。正解は日焼けでしたー」
彼が笑う。いつものさわやかな笑い方だ。
「境目、すごいね」
「触ってみるか?」
「えっ」
また、心臓がドクンと跳ねてしまった。
(続く)
ぼくは、何も言えなかった。
ぼくはテレビ画面を見ているはずなのだけれども、焦点が合わなくなっていた。
コントローラーを握っている両手も動かない。CPUキャラに自分のキャラが一方的に殴られている。
やっていた格闘ゲームはゲームオーバーになった。
そのタイミングで、彼の腕にギュッと力が入った。
ぼくの首、背中、腹部がさらに温かくなって、そこで初めて、ぼくは自分の体に力をガチガチに入れていたことに気づいた。
体をあずけるように、スッと力を抜いた。
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やがて、彼が言葉を発した。
「お前ともっと仲良くなりたいけど、やっぱり漫画みたいにいかないなあ」
「漫画って?」
彼の唇が近い首のくすぐったさ。それを意識しながら、ぼくは聞き返した。
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「そ、それはぼくも同じというか……」
そう、同じだ。きっとその理由は違うだろうけれども。
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たぶんそうだ。
そんなことを考えていると、彼は言った。
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「えっ!?」
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「落ち着けって」
「あっ」
温かい手で、脇腹をくすぐられた。
「あっ、や、やめて」
「落ち着いたらやめるぞ」
「わ、わかったから」
また心臓はおさまっていった。
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「薬師寺くんは……アイドル、みたいな人?」
「なんだよそれ」
顔は見えないけど、笑っているみたいだ。
「だって、顔かっこいいし、スポーツ万能みたいだし、いつも周りに人いるし」
「えー? そんなふうに思ってたのか。他には?」
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「へー」
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そしてぼくの肩をつかみ、ぼくの体を後ろに回転させるように力を入れた。
ぼくも素直に応じ、彼のほうを向く。
「ホレ」
彼はぼくのすぐ目の前で立ったまま、左手でハーフパンツの裾を持ち上げた。
「日焼けだ……」
目が釘付けになった。
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褐色部分も白色部分も、とてもきれいだった。
「そう。正解は日焼けでしたー」
彼が笑う。いつものさわやかな笑い方だ。
「境目、すごいね」
「触ってみるか?」
「えっ」
また、心臓がドクンと跳ねてしまった。
(続く)
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