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第1話
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フワフワと浮いたボールが来た。
前衛のぼくはそれを見て、ラケットをセット。ボールをとらえて、ボレーを決める……はずだったのに、少し力んでしまった。
ボールはネットに引っ掛かり、相手ペアのポイントになった。
「ご、ごごごめん薬師寺くん」
「ドンマイ。気にすんな、佐藤」
慌てて謝るぼくに、後衛をやっているダブルスパートナーの薬師寺くんが手のひらを向けた。
少しよそよそしいような、恥ずかしそうな、そんな顔で。
目もちょっとだけ逸らし気味だったが、多分ぼくのほうがより逸らしている。
次のポイントでは、ぼくがレシーブを打って後ろにとどまっていたら、それをさらに打ち返してきた相手のボールが二人のちょうど真ん中に来た。
「あっ、ご、ごめん」
「あ、悪ぃ……」
二人で”お見合い”をしてしまった。
どちらも手が出ず、ボールは二人の間を通り過ぎて後ろのフェンスに。ポイントを献上してしまうことになった。
今日は、ソフトテニス部の先輩たちが大会をひかえていてるということで、調整のために校内試合をやっていた。
ぼくたちは大会に出る先輩ペアを相手に試合をしていたのだけれども、ほとんどポイントが取れずにストレート負けをしてしまった。
相手が校外でも校内でも、試合をした後は、二人そろって顧問の先生のところに行くしきたりになっている。アドバイスをもらうためだ。
「相手はうちの一番手のペアだから強いのは当たり前だが。もうちょっとまともな試合をしないとな」
先生のその言葉に、ぼくはうなだれるしかなかった。
「試合を観てたが、なんかお前ら硬かったな。コミュニケーションもギクシャクしてないか?
二人ともなかなか上達が早いから期待してるんだが、それじゃあ困る。まあ、まだペア組んだばかりだし、お前ら今まであまり絡みがなかったみたいだから、仕方ない部分はあるんだろうけどな」
先生の言うとおり、ぼくら中学一年生がダブルスパートナーを決めてもらったのはつい最近。二人で試合をするのは初めての経験だった。
ぼくと薬師寺くんの絡みが少なかったというのも、そのとおり。普段はほとんど話すことがない関係だった。
それはクラスが違うからという理由もあるだろうけれども、それに加え、ぼくにとって薬師寺くんがちょっと近づきがたい存在ということも大きな原因なのかもしれなかった。
もちろんそれは彼が嫌いだからとか、そんな悪い意味では決してない。
彼はスポーツ万能で、体育でサッカーやバスケがあると必ず活躍すると聞いている。いわゆる陽キャというやつだと思う。
顔も整っているし、なぜかあまり話題にならないみたいだけれども、すごくきれいな褐色肌をしている。それこそ、アニメに出てくる褐色イケメンキャラのように。
キラキラしていて、ぼくにはまぶしすぎるというか……。
彼の近くにいると、どうしても緊張してしまう。だからなかなか近づけなかった。
「パートナーは夫婦みたいなもんだぞ。だからな、佐藤と薬師寺。まずお前らは仲良くなれ。話はそれからだ」
顧問の先生はそう言って、ぼくと彼の肩をポンと両手で同時に叩いた。
ぼくらは思わず顔を見合わせてしまったが、やっぱり目が合うと照れ臭かった。
(続く)
前衛のぼくはそれを見て、ラケットをセット。ボールをとらえて、ボレーを決める……はずだったのに、少し力んでしまった。
ボールはネットに引っ掛かり、相手ペアのポイントになった。
「ご、ごごごめん薬師寺くん」
「ドンマイ。気にすんな、佐藤」
慌てて謝るぼくに、後衛をやっているダブルスパートナーの薬師寺くんが手のひらを向けた。
少しよそよそしいような、恥ずかしそうな、そんな顔で。
目もちょっとだけ逸らし気味だったが、多分ぼくのほうがより逸らしている。
次のポイントでは、ぼくがレシーブを打って後ろにとどまっていたら、それをさらに打ち返してきた相手のボールが二人のちょうど真ん中に来た。
「あっ、ご、ごめん」
「あ、悪ぃ……」
二人で”お見合い”をしてしまった。
どちらも手が出ず、ボールは二人の間を通り過ぎて後ろのフェンスに。ポイントを献上してしまうことになった。
今日は、ソフトテニス部の先輩たちが大会をひかえていてるということで、調整のために校内試合をやっていた。
ぼくたちは大会に出る先輩ペアを相手に試合をしていたのだけれども、ほとんどポイントが取れずにストレート負けをしてしまった。
相手が校外でも校内でも、試合をした後は、二人そろって顧問の先生のところに行くしきたりになっている。アドバイスをもらうためだ。
「相手はうちの一番手のペアだから強いのは当たり前だが。もうちょっとまともな試合をしないとな」
先生のその言葉に、ぼくはうなだれるしかなかった。
「試合を観てたが、なんかお前ら硬かったな。コミュニケーションもギクシャクしてないか?
二人ともなかなか上達が早いから期待してるんだが、それじゃあ困る。まあ、まだペア組んだばかりだし、お前ら今まであまり絡みがなかったみたいだから、仕方ない部分はあるんだろうけどな」
先生の言うとおり、ぼくら中学一年生がダブルスパートナーを決めてもらったのはつい最近。二人で試合をするのは初めての経験だった。
ぼくと薬師寺くんの絡みが少なかったというのも、そのとおり。普段はほとんど話すことがない関係だった。
それはクラスが違うからという理由もあるだろうけれども、それに加え、ぼくにとって薬師寺くんがちょっと近づきがたい存在ということも大きな原因なのかもしれなかった。
もちろんそれは彼が嫌いだからとか、そんな悪い意味では決してない。
彼はスポーツ万能で、体育でサッカーやバスケがあると必ず活躍すると聞いている。いわゆる陽キャというやつだと思う。
顔も整っているし、なぜかあまり話題にならないみたいだけれども、すごくきれいな褐色肌をしている。それこそ、アニメに出てくる褐色イケメンキャラのように。
キラキラしていて、ぼくにはまぶしすぎるというか……。
彼の近くにいると、どうしても緊張してしまう。だからなかなか近づけなかった。
「パートナーは夫婦みたいなもんだぞ。だからな、佐藤と薬師寺。まずお前らは仲良くなれ。話はそれからだ」
顧問の先生はそう言って、ぼくと彼の肩をポンと両手で同時に叩いた。
ぼくらは思わず顔を見合わせてしまったが、やっぱり目が合うと照れ臭かった。
(続く)
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