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第1話

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 なぜ役所は日曜日に営業してくれないのか。
 そう思うことは多い。

 今もそう。
 郵便受けをチェックしてきたら、この部屋の契約更新の案内が来ていた。
 で、必要書類の項目を見たら『住民票の写し』。

 まったく……。平日に休みが簡単に取れるとでも?
 簡単に有休や半休が取れるような会社なら、毎日終電かその一本前で帰ってくるような生活にはならない。
 今日も約一か月ぶりの休みだが、当然のことながら日曜日である。

「いやあ、困ったな」

 ソファーで愚痴をこぼしてしまう。

「お兄さんみたいな一人暮らしって、大変だよね」
「うおぉっ!?」

 突然だった。玄関のほうから高めでハスキーな声が聞こえた。
 驚きすぎて体がソファーから跳ねた。
 鍵はしめていたはずなのだが。

「菅井タケトさん、25歳。休みが少なすぎて彼女さんもいないし、友達も遠くにしかいないし、近くに住んでいた親も亡くなっていて、頼める人がいない……ってことでいい?」

 非常に気持ちの悪い発言。
 そして声は近づいてくる。キッチンを抜けて部屋へと入ってこようというのだ。

「……」

 扉から中に入ってきて一度立ち止まったのは、緑の半ズボンに黒のタンクトップという姿の子ども。
 もちろん面識などない、はずだ。

 真っ先に、肌の色に目が行った。
 きれいな褐色肌だった。大人の日焼けでよくありがちな不均一でくすんだものではなく、子ども特有のきめ細かさを感じる均一な褐色。

 身長は低い。160もなさそうだ。黒い髪はややボサボサ気味だが、癖がなく清潔感があった。
 手足が長めで、スタイルが良い。

「だ、誰だ? お前は」

 しかしながら、その健康そうな見かけはともかく、登場の仕方と発言内容が気色悪すぎる。
 なぜ俺のことを詳しく知っているのか。

「オレ? ダイキ」

 変声期特有のややかすれ気味な声。
 容姿も含め、そのダイキと名乗る少年は小学校高学年か中学一、二年生くらいに見えた。

「いや、知らないぞ。どこから来た?」
「宇宙から。オレ宇宙人だから」
「宇宙、人……? いや、どう見ても普通の日本人の子どもだろ」
「日本人じゃないよ。宇宙人」

 困惑していると、彼は構わず動き出す。

「住民票、オレが代わりに取ってくるよ」

 クローゼットが開く。

「ハンコ借りるよ。委任状に押すから」

 中に置いてある小さな引き出しを開け、ハンコを取り出した。
 いや、なぜ仕舞っている場所まで知っている?

「じゃあ、明日の夜にまた来るから」

 圧倒されて動けない俺に、彼はそう言ってニッコリと笑った。
 口からこぼれる真っ白な歯は、褐色肌との対比が見事だった。

 我に返ったのは、彼が帰ってしばらくしてからだった。

 激務のせいで、睡眠時間は毎日4時間くらいしかしか取れていなかった。
 知らないうちに寝ていて、夢を見ていたのだと信じたかった。



(続く)
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