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第4部 越谷アパセティックタウン
第60話
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「今回の件、本当に迷惑をかけた」
緑色のヒーローの中身だった黒髪短髪の爽やかな風貌の青年は、これから地元に帰るハヤテとワタルに対し、深々と頭を下げた。
彼はまだ色々とやることがあるようで、ここに残るようだ。
「いいってことよ!」
「そうですよ。洗脳されていても子供の声はちゃんと届くって、やっぱりヒーローってさすがだなあって思いましたし」
親指を立てているハヤテの横で、ワタルも頭を下げ返している。
二人の背後には、緊急手配のヘリコプターがあった。道路が当分通行止めゆえ、空から帰る予定である。
「警察のかたに聞きましたが、街のAIがけっこう前からハッキングされていたようですね?」
「そのようだ。チェックを担当するAIまで乗っ取られていて、なかなか発覚しなかったらしい」
「へー。俺はそういうのよくわかんねーけど、やっぱり全部AI任せってのはよくないんじゃねえの?」
「そうだな……現にこうやって、怪しい治験に街が使われてしまったわけだからね。わたしも支部の上を通して進言はしてみるつもりだよ」
この街の人間に治験と称して怪しげな薬を投与し、洗脳してヒーローと戦わせようとしていた獣機の計画はいったん頓挫となった。
獣機幹部・リックスにこの街を選ばれてしまったのは、『この街の人間が無気力で洗脳されやすい』と判断されたことも原因であると思われた。あらゆる判断をAIに任せる街は、人の気力すらも退化させていた。今回の事件を機に、今後はなんらかの改善策が採られることになるだろう。
「元気でね! お兄さんたち!」
やや高く、ハスキーな声。
緑色のヒーローの青年の隣には、病院の入り口までハヤテを案内した褐色少年。見送りにきていた。
ワタルが「君もね」と言って、少年の手を取る。
「今回はとても助かったよ。でも危ないから、今度からはヒーローを追いかけて戦場に入ったらダメだよ」
「うん! わかった!」
「いい返事だ」
ワタルが頭を撫でると、少年は「へへへ」と無邪気に笑った。
「ねえねえ。ワタルさんもヒーロー支部の人なんでしょ?」
「うん、そうだよ?」
「めちゃくちゃかっこいいね! 最初、ゲイノウジンかと思ったよ! モテるでしょ!」
「そんなことないよ。でも、ありがとね」
このやりとりに慌てたのは、ハヤテである。
「あっ、お前! ワタルにああいうことはしちゃダメだぞ!?」
「大丈夫! しない!」
「ああいうこと?」
「あっ、いや、こっちの話だぜ!」
「?」
ヘリコプターが上空に飛び立つと、街を囲む巨大な壁――高速道路――が崩れた様子がよくわかった。
ハヤテはなんとなくそれを窓から見ていたが、しばらくしてワタルの視線を感じた。
「ん? どうした?」
「いや、不思議に思ったんだけど。なんでハヤテはあのとき、変身が解けたら下がスッポンポンだったの? 理由聞き忘れてた」
「えっ!?」
ワタルの表情は本当に何気なく聞いたというものであったが、ハヤテは慌てた。
ちなみに、今は病院でもらった患者用半ズボンを履いている。
「あ、ああ、ちょっと、な。色々あって破けちまって、捨てる羽目にだな」
「へえ。そうなんだ」
顔を赤くするハヤテに対し、ワタルはあくまでも平然としていた。
「なんで恥ずかしがってるの? 見るの別に初めてじゃないし。今さらというか」
「そういう問題じゃないだろ……。つーか俺だけ見られてフコーヘイだぞ。お前も見せておあいこってのはどうだ」
「やだ。恥ずかしいから」
「それおかしいだろ!」
「うげっ、苦しい」
ハヤテの腕が首に巻かれ、ワタルは手でタップして降参の意をあらわした。
「あ」
「ん、どうした」
「思い出したよ。この街の昔の異名」
「?」
ワタルはハヤテの腕の中で、ふと思い出した。
「治験の街――そう言われてたはず」
この街に来たときに結局思い出せなかった、大昔の“レイクタウン”以外の異名――。
「治験の街、か……」
「昔も、この場所に薬の開発のための治験をやってた病院があったらしいよ」
「へー! 今回みたいに変な薬じゃないよな?」
「もちろん。ここでいろんな人が治験を受けて、人の役に立つ新しい薬がいっぱい生まれてたってさ」
二人は、遠ざかっていく街を、見えなくなるまで眺めていた。
(第四部 終わり)
緑色のヒーローの中身だった黒髪短髪の爽やかな風貌の青年は、これから地元に帰るハヤテとワタルに対し、深々と頭を下げた。
彼はまだ色々とやることがあるようで、ここに残るようだ。
「いいってことよ!」
「そうですよ。洗脳されていても子供の声はちゃんと届くって、やっぱりヒーローってさすがだなあって思いましたし」
親指を立てているハヤテの横で、ワタルも頭を下げ返している。
二人の背後には、緊急手配のヘリコプターがあった。道路が当分通行止めゆえ、空から帰る予定である。
「警察のかたに聞きましたが、街のAIがけっこう前からハッキングされていたようですね?」
「そのようだ。チェックを担当するAIまで乗っ取られていて、なかなか発覚しなかったらしい」
「へー。俺はそういうのよくわかんねーけど、やっぱり全部AI任せってのはよくないんじゃねえの?」
「そうだな……現にこうやって、怪しい治験に街が使われてしまったわけだからね。わたしも支部の上を通して進言はしてみるつもりだよ」
この街の人間に治験と称して怪しげな薬を投与し、洗脳してヒーローと戦わせようとしていた獣機の計画はいったん頓挫となった。
獣機幹部・リックスにこの街を選ばれてしまったのは、『この街の人間が無気力で洗脳されやすい』と判断されたことも原因であると思われた。あらゆる判断をAIに任せる街は、人の気力すらも退化させていた。今回の事件を機に、今後はなんらかの改善策が採られることになるだろう。
「元気でね! お兄さんたち!」
やや高く、ハスキーな声。
緑色のヒーローの青年の隣には、病院の入り口までハヤテを案内した褐色少年。見送りにきていた。
ワタルが「君もね」と言って、少年の手を取る。
「今回はとても助かったよ。でも危ないから、今度からはヒーローを追いかけて戦場に入ったらダメだよ」
「うん! わかった!」
「いい返事だ」
ワタルが頭を撫でると、少年は「へへへ」と無邪気に笑った。
「ねえねえ。ワタルさんもヒーロー支部の人なんでしょ?」
「うん、そうだよ?」
「めちゃくちゃかっこいいね! 最初、ゲイノウジンかと思ったよ! モテるでしょ!」
「そんなことないよ。でも、ありがとね」
このやりとりに慌てたのは、ハヤテである。
「あっ、お前! ワタルにああいうことはしちゃダメだぞ!?」
「大丈夫! しない!」
「ああいうこと?」
「あっ、いや、こっちの話だぜ!」
「?」
ヘリコプターが上空に飛び立つと、街を囲む巨大な壁――高速道路――が崩れた様子がよくわかった。
ハヤテはなんとなくそれを窓から見ていたが、しばらくしてワタルの視線を感じた。
「ん? どうした?」
「いや、不思議に思ったんだけど。なんでハヤテはあのとき、変身が解けたら下がスッポンポンだったの? 理由聞き忘れてた」
「えっ!?」
ワタルの表情は本当に何気なく聞いたというものであったが、ハヤテは慌てた。
ちなみに、今は病院でもらった患者用半ズボンを履いている。
「あ、ああ、ちょっと、な。色々あって破けちまって、捨てる羽目にだな」
「へえ。そうなんだ」
顔を赤くするハヤテに対し、ワタルはあくまでも平然としていた。
「なんで恥ずかしがってるの? 見るの別に初めてじゃないし。今さらというか」
「そういう問題じゃないだろ……。つーか俺だけ見られてフコーヘイだぞ。お前も見せておあいこってのはどうだ」
「やだ。恥ずかしいから」
「それおかしいだろ!」
「うげっ、苦しい」
ハヤテの腕が首に巻かれ、ワタルは手でタップして降参の意をあらわした。
「あ」
「ん、どうした」
「思い出したよ。この街の昔の異名」
「?」
ワタルはハヤテの腕の中で、ふと思い出した。
「治験の街――そう言われてたはず」
この街に来たときに結局思い出せなかった、大昔の“レイクタウン”以外の異名――。
「治験の街、か……」
「昔も、この場所に薬の開発のための治験をやってた病院があったらしいよ」
「へー! 今回みたいに変な薬じゃないよな?」
「もちろん。ここでいろんな人が治験を受けて、人の役に立つ新しい薬がいっぱい生まれてたってさ」
二人は、遠ざかっていく街を、見えなくなるまで眺めていた。
(第四部 終わり)
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ありがとうございます!
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ご感想ありがとうございます!
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そのときはどうぞよろしくおねがいします。
退会済ユーザのコメントです
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