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第4部 越谷アパセティックタウン

第58話

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「とどめを刺そう」

 ハヤテの喉元に突き付けられていた刀の切っ先が、そのまま上に引かれ、一度そこでとまった。

「……っ!」

 勢いをつけて首を突き刺そうという刀が、加速を始める。
 逃げることができないハヤテが歯を食いしばり、顔をそむけた。

 が、刃は落ちてこない。
 そしてハヤテを押さえていたリックスの足が消える。

「何!?」

 それはリックスの声だった。
 ハヤテが見ると、リックスが羽交い絞めにされていた。
 そのメタルボディを後ろから抱えているのは――。

「ワタルっ!?」

 やや茶色がかった髪を持つ、美形の青年。
 ハヤテのオペレーターであり、この病院に運び込まれていた三条ワタルだった。

「貴様――!」
「うあああっ」

 さすがに力が違いすぎた。リックスが体を回転させて振りほどくと、ワタルは思いっきり飛ばされた。カプセルに当たりガラスを散乱させる……
 ……と、同時に、ハヤテの手は電子警棒を握り、動いていた。

「グアアアアッ――」

 起き上がりながらの、万全な体勢ではない状態からの電子警棒の突き。しかし確実に左足首にスタンガンが差し込まれたことは、激しいショート音とリックスの声で明らかだった。

「おのれ――」

 右足で床を蹴って慌てて距離を取るリックス。
 ハヤテはその隙に慌ててワタルの元へと飛んだ。

「わ、ワタルっ、しっかりしろっ、大丈夫か?」
「う……だ、だいじょう、ぶ」

 対獣機保安庁開発の頑丈な現場服を着ていたはずのワタルだが、収容時に脱がされてしまったのか、今は上下とも下着姿になっている。ダイレクトに伝わった体への衝撃で、ワタルの顔は苦痛で歪んでいた。
 ハヤテはしっかりとワタルを背後に隠し、リックスを睨んだ。

「カプセルから抜け出したのか」

 割れたカプセルをチラリと見てから、リックスは言った。
 そのカプセルは、リックスの背後――壁際に独立して置いてあったカプセルだった。どうやらワタルはそこに入れられていたようだ。

「どうだ。さすがに効いただろ」
「……これで勝ったつもりか?」
「何?」

 リックスの吊り目が赤く光り、どこからかビープ音のような音がした。
 すると、リックスの背後の壁にあった扉から、一人の獣機が……

「お、お前は……!!」

 獣機ではなかった。
 緑色を基調とし、黒色も入っている密着型の特殊戦闘ボディスーツ。肩、肘、膝など重要な関節部分はシルバーのプロテクターがついており、ヘルメット部分は頬や口元まで特殊素材でガードされ、目の部分は特殊なグラス。
 ハヤテのスーツとは少々違うデザインだったが、誰が見てもヒーロースーツとわかるものだった。

 ただ、電子警棒は持っていない。両手剣を握っている。
 そして緑色のヒーローは、リックスをかばうような位置まで出てくると、ハヤテに対してその剣を構えた。

「行方不明になってたここのエリアのヒーロー……だよな……?」
「ハヤテ! 間違いないよ! この人だ!」

 ワタルが叫ぶ。

「お前、こいつに何をした?」

 ハヤテはリックスに問う。

「教えてやる。この街では人間を洗脳し、対ヒーローの人間兵器を作るための薬を作り、治験をしていたのだ。このヒーローはそれを邪魔してきたから捕らえて治験第一号とした」
「……!」
「殺れ」

 リックスの命令とともに、緑色のヒーローがハヤテを襲う。

「ちょ、ちょっと待て!」

 慌ててハヤテも電子警棒で受けるが、無言のままひたすら斬りつけてくる。

「待てって言ってるだろ! 意識はあるのか!? 俺らはお前を探しに来たんだ!」
「……」

 しかしやはり無言。
 そして躊躇なく斬りかかってくる。

 緑色のヒーローは無傷ゆえヒーローらしい動きの速さ。キレもある。
 対するハヤテはダメージでボロボロであり、動きが鈍い。

「お、おい! 正気に戻ってくれ!」
「無駄だ」

 あとは任せる――。
 そう言って、リックスは緑色のヒーローが現れたものとは違う扉から消えていった。

 緑色のヒーローの猛攻は続いた。
 やがてハヤテは緑色のヒーローの斬撃に捕まり始めた。
 つばぜり合いから電子警棒を押し上げられると――。

「ああ゛あっ」

 胸部から腹部にかけて斬られ、火花が散る。

「う゛あああっ」

 たまらず胸を押さえた瞬間に肩を斬られ火花。

「ぐあ゛あっッ」

 そして足も狙われ火花を散らしながらふらついたところに、剣での強烈な突きがハヤテを襲った。

「あ゛あ゛ああああっッ――!」

 背後に仰向けに倒れてしまったハヤテ。
 電子警棒が、また手から離れてしまった。
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