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第4部 越谷アパセティックタウン
第54話
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「そこで何をしている」
その声は平坦で冷たく、ハヤテの耳にはやや嫌な予感のするものだった。
「うわ。街の人に見つかっちゃったか」
「いや、何か変だぞ」
ハヤテは立ち上がった。
が、まだ回復しきっていない体は平衡感覚がイマイチだった。
「う……」
ふらつく。
距離があり、薄暗く、ちょうど時間になり灯ったばかりの街灯も逆光であるため、対象はまだよく見えない。
だが腰を落としている場合ではないというのが、これまでのヒーローの仕事からくるハヤテの勘だった。
そして、街灯のすぐ下までやってきたそれは――。
人間の形をした、全身メタルの生き物。
嫌な予感は当たった。
量産型の人型獣機のようである。
「じゅ、獣機……!?」
褐色少年がそう言ってビクッと固まった。
「ど、ど、どうしよう、お兄さん」
「もちろん、俺が戦うぜ!」
ハヤテが少年の前に立ち、電子警棒を構える。
「装着!」
ハヤテの体が光った。
「えっ」
すぐに、少年の高くハスキーな声があがった。もちろん困惑の声だ。
光がおさまる。
黒色基調で赤色も使われている、体への密着度が高いボディスーツ。肩、肘、膝など重要な関節部分に付いているのはシルバーのプロテクター。頬や口元までガードされ、目の部分がグラスになっているヘルメット。
まさに、少年の知識の中にあるヒーローの姿そのものだった。
「えええっ!? お兄さん本物のヒーローだったの!?」
「そうだぞ」
「ご、ごごごめんなさい。オレ知らなくて――」
「大丈夫。心配すんな!」
狼狽する少年にそう言うと、ハヤテはヘルメット越しに、現れた人型獣機を睨んだ。
「ほう。街の人間に探させていたヒーローか? ちょうどいい。始末する」
対する人型獣機の目も、白く光る。
「いくぜ!」
獣機の『街の人間に探させていた』という言葉は引っ掛かったが、今はまず目の前の敵を倒さねばならない。ハヤテは突進していった。
しかし、当然いつものようなキレのある動きではない。
電子警棒の突きは簡単に見切られ、逆にメタルの足がハヤテの腹部にめり込んだ。
「ぐふっ」
後方に大きく飛ばされ、尻もちをつく。
「お兄さん! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫、だ」
駆け寄ってきて体を支える褐色少年にそう答えると、ハヤテはまた突進していった。
だが足がイメージ通りに動いておらず、前のめりでバランスが悪い。
それを見透かしたような獣機にひらりとかわされる。
つんのめったハヤテは慌てて振り返ったが、その瞬間に今度はハイキックが飛んできた。
「がはっ」
ヘルメットの顎部分を蹴られ、のけぞる。
注文通りにできた隙。
獣機の右手の甲が開き、三連装銃がハヤテの胸をロックオンした。
「あ゛ああっッ」
まともに銃弾を受け、スーツの胸部から火花が上がる。
さらに獣機は、自身の左手首を外した。
そこから現れたのは、連射に適した、蜂の巣状の銃口。
「あ゛ッあッあ゛あァああァッ!」
密着型スーツ前面から次々とあがる火花。あえぎ声とともに、ハヤテの体が痙攣していく。
そしてすぐに素早く距離を詰めていく獣機の右前腕が、チラリと光る。
刃を出したのだ。
「……っ!」
ダメージで気づくのが遅れたハヤテが、慌てて電子警棒を構える。
が、間に合わず。
「あぁっ!」「くっ!」「ぁあ゛っ!」
めった斬りされ、スーツから火花を散らし続ける。
そしてやっと、獣機の刃の振り上げを電子警棒で受けることに成功した、ように見えたが――。
カーンという乾いた音とともに、電子警棒が回転しながら宙を舞った。力がうまく入っていなかったのだ。
――しまった。
と思ったときには、もう獣機は丸腰のハヤテに向かって、ひときわ大きく刃を振りかぶっていた。
「う゛あ゛ぁあああ゛っ――!!」
「お、お兄さんっ!」
振り下ろした斜めの筋に沿った、スーツの派手な火花。
ハヤテの声と、見ていた少年の悲痛な叫びが響く。
「……ぁ……」
一瞬の静寂ののち、小さなうめきとともに、ハヤテは後ろに倒れた。
「動きが悪いな。既に満身創痍だったか」
ゆっくりと近づく獣機の背中から、一本のワイヤーが出る。
それは崩れ落ちたハヤテの首に器用に巻き付き、その体を無理やりに起こした。
「う゛っ」
スーツ越しに首を絞めらたハヤテは、首を巻くメタルのムチを両手で引き剥がそうとする。
「ぐぅっ!」
もちろんムチは外れる気配すら見せない。
逆に、一段と力が入る。
「うがあ゛……あ゛っ……」
そのまま獣機はハヤテを持ち上げた。
「あ゛っ……う゛……がぁっ……うう゛ぁあ゛……あ゛ぁッ!」
「あまり長引かせたくなない。一気に終わりにしてやる」
たまらず足をバタバタ動かしているハヤテに冷たい声でそう言うと、獣機は体全体をぼんやりと光らせた。
「スーツが我々に対抗できるほど頑丈でも、中の人間は決してそうではないはずだ」
獣機の全身を包む光は体幹に集約していき、一気に、背中のワイヤーを通って流し込まれた……
ハヤテの体へと。
「うあ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――――!!」
リックスの雷神の槌から放たれた雷光のダメージが残っていたハヤテにとって、この電流攻撃は耐えがたいものであった。
大きなあえぎ声とともに、吊るされたままのハヤテの体が大きく反った。
薄暗い景色の中、スーツが過電流で明滅し、ところどころに小爆発を起こした。
「……」
攻撃が終わると、ハヤテの足と手がだらりと下がり、動かなくなった。
変身は解けていないが、うめき声すらも出ない。
ただただスーツ全体から出る煙のみが、街灯の光を受けて揺れのぼっていた。
「死んだか。リックス様によい報告ができる」
獣機はハヤテの体を捨てるように放り投げると、褐色少年には目もくれず、去っていった。
少年はハヤテに駆け寄った。
胸に手を当てる。
「……」
鼓動を感じた少年は、ハヤテの体をかついだ。
その声は平坦で冷たく、ハヤテの耳にはやや嫌な予感のするものだった。
「うわ。街の人に見つかっちゃったか」
「いや、何か変だぞ」
ハヤテは立ち上がった。
が、まだ回復しきっていない体は平衡感覚がイマイチだった。
「う……」
ふらつく。
距離があり、薄暗く、ちょうど時間になり灯ったばかりの街灯も逆光であるため、対象はまだよく見えない。
だが腰を落としている場合ではないというのが、これまでのヒーローの仕事からくるハヤテの勘だった。
そして、街灯のすぐ下までやってきたそれは――。
人間の形をした、全身メタルの生き物。
嫌な予感は当たった。
量産型の人型獣機のようである。
「じゅ、獣機……!?」
褐色少年がそう言ってビクッと固まった。
「ど、ど、どうしよう、お兄さん」
「もちろん、俺が戦うぜ!」
ハヤテが少年の前に立ち、電子警棒を構える。
「装着!」
ハヤテの体が光った。
「えっ」
すぐに、少年の高くハスキーな声があがった。もちろん困惑の声だ。
光がおさまる。
黒色基調で赤色も使われている、体への密着度が高いボディスーツ。肩、肘、膝など重要な関節部分に付いているのはシルバーのプロテクター。頬や口元までガードされ、目の部分がグラスになっているヘルメット。
まさに、少年の知識の中にあるヒーローの姿そのものだった。
「えええっ!? お兄さん本物のヒーローだったの!?」
「そうだぞ」
「ご、ごごごめんなさい。オレ知らなくて――」
「大丈夫。心配すんな!」
狼狽する少年にそう言うと、ハヤテはヘルメット越しに、現れた人型獣機を睨んだ。
「ほう。街の人間に探させていたヒーローか? ちょうどいい。始末する」
対する人型獣機の目も、白く光る。
「いくぜ!」
獣機の『街の人間に探させていた』という言葉は引っ掛かったが、今はまず目の前の敵を倒さねばならない。ハヤテは突進していった。
しかし、当然いつものようなキレのある動きではない。
電子警棒の突きは簡単に見切られ、逆にメタルの足がハヤテの腹部にめり込んだ。
「ぐふっ」
後方に大きく飛ばされ、尻もちをつく。
「お兄さん! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫、だ」
駆け寄ってきて体を支える褐色少年にそう答えると、ハヤテはまた突進していった。
だが足がイメージ通りに動いておらず、前のめりでバランスが悪い。
それを見透かしたような獣機にひらりとかわされる。
つんのめったハヤテは慌てて振り返ったが、その瞬間に今度はハイキックが飛んできた。
「がはっ」
ヘルメットの顎部分を蹴られ、のけぞる。
注文通りにできた隙。
獣機の右手の甲が開き、三連装銃がハヤテの胸をロックオンした。
「あ゛ああっッ」
まともに銃弾を受け、スーツの胸部から火花が上がる。
さらに獣機は、自身の左手首を外した。
そこから現れたのは、連射に適した、蜂の巣状の銃口。
「あ゛ッあッあ゛あァああァッ!」
密着型スーツ前面から次々とあがる火花。あえぎ声とともに、ハヤテの体が痙攣していく。
そしてすぐに素早く距離を詰めていく獣機の右前腕が、チラリと光る。
刃を出したのだ。
「……っ!」
ダメージで気づくのが遅れたハヤテが、慌てて電子警棒を構える。
が、間に合わず。
「あぁっ!」「くっ!」「ぁあ゛っ!」
めった斬りされ、スーツから火花を散らし続ける。
そしてやっと、獣機の刃の振り上げを電子警棒で受けることに成功した、ように見えたが――。
カーンという乾いた音とともに、電子警棒が回転しながら宙を舞った。力がうまく入っていなかったのだ。
――しまった。
と思ったときには、もう獣機は丸腰のハヤテに向かって、ひときわ大きく刃を振りかぶっていた。
「う゛あ゛ぁあああ゛っ――!!」
「お、お兄さんっ!」
振り下ろした斜めの筋に沿った、スーツの派手な火花。
ハヤテの声と、見ていた少年の悲痛な叫びが響く。
「……ぁ……」
一瞬の静寂ののち、小さなうめきとともに、ハヤテは後ろに倒れた。
「動きが悪いな。既に満身創痍だったか」
ゆっくりと近づく獣機の背中から、一本のワイヤーが出る。
それは崩れ落ちたハヤテの首に器用に巻き付き、その体を無理やりに起こした。
「う゛っ」
スーツ越しに首を絞めらたハヤテは、首を巻くメタルのムチを両手で引き剥がそうとする。
「ぐぅっ!」
もちろんムチは外れる気配すら見せない。
逆に、一段と力が入る。
「うがあ゛……あ゛っ……」
そのまま獣機はハヤテを持ち上げた。
「あ゛っ……う゛……がぁっ……うう゛ぁあ゛……あ゛ぁッ!」
「あまり長引かせたくなない。一気に終わりにしてやる」
たまらず足をバタバタ動かしているハヤテに冷たい声でそう言うと、獣機は体全体をぼんやりと光らせた。
「スーツが我々に対抗できるほど頑丈でも、中の人間は決してそうではないはずだ」
獣機の全身を包む光は体幹に集約していき、一気に、背中のワイヤーを通って流し込まれた……
ハヤテの体へと。
「うあ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――――!!」
リックスの雷神の槌から放たれた雷光のダメージが残っていたハヤテにとって、この電流攻撃は耐えがたいものであった。
大きなあえぎ声とともに、吊るされたままのハヤテの体が大きく反った。
薄暗い景色の中、スーツが過電流で明滅し、ところどころに小爆発を起こした。
「……」
攻撃が終わると、ハヤテの足と手がだらりと下がり、動かなくなった。
変身は解けていないが、うめき声すらも出ない。
ただただスーツ全体から出る煙のみが、街灯の光を受けて揺れのぼっていた。
「死んだか。リックス様によい報告ができる」
獣機はハヤテの体を捨てるように放り投げると、褐色少年には目もくれず、去っていった。
少年はハヤテに駆け寄った。
胸に手を当てる。
「……」
鼓動を感じた少年は、ハヤテの体をかついだ。
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