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第3部 遺された漁港・銚子

第45話

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 手の拘束がほどけたハヤテは、すぐに足の鎖も外し、転がっていた電子警棒に飛びつく。
 そして体勢を立て直すと、床を蹴った。

 もちろん標的は獣機幹部・KCC。
 ダメージの残る、おまけに射精で脱力感のある体ではあるが、さすがに速い。

「おっと。待ちましょうか」
「――っ!」

 ハヤテが急ブレーキをかけた。
 KCCがサッと、子供の首を前からではなく後ろからつかむ形に変更し、盾にする動きを見せたためだ。

「鎖、外れちゃったんですか。誰がやったか知りませんけど、縛るならちゃんと縛ってほしいものですね」

 まるで人間のようにため息をつき、ぼやく。

「計画変更です。先にヒーロー君を片付けましょう」

 ナイフを子供の喉元で光らせた。

「ヒーロー君。見てのとおり、この子は人質となりました」

 首の皮膚に触れるか触れないかというところに刃を突き付けられた子供は、動きのとまったヒーローを見ていた。
 その表情に恐怖は見て取れたが、やはりどこか冷めているものがあった。

 KCCが口笛を吹く。

「!?」

 高い天井近くにある採光窓が、割れた。
 一枚、二枚。
 キラリと光るものが、目にもとまらぬ速さで入ってくる。
 そして床に着地し、コンクリート片を舞い上げた。

「念のためにと思って、二匹連れてきておいて正解でした」

 それは犬型の獣機だった。二体がハヤテの左右離れたところにとまる。
 以前の仕事で見たものと同型だ。

「さて、と。ヒーロー君、あなたのその武器を捨ててもらいましょうか」

 捨てないと刺しますよ――そう言わんばかりに、子供の喉元の刃をまた光らせる。

「……っ」

 ハヤテは慌てて、ヒーローが携行を許される唯一の武器、電子警棒を投げ捨てた……
 ……いや、投げ捨てようとしたが、その手がとまった。
 その瞬間、子供からまさかの言葉が飛んできたからだ。

「ヒーローのあんちゃん、オレ、ヒーローに助けてもらいたくないから。普通に戦っていいよ」

 固まるハヤテ。

「あなたの意見は求めてませんけど?」

 KCCが子供の首を後ろからつかんでいる左手をギュッと握り、さらに上方へと持ち上げる。

「ぐふっ」
「おい! やめろ!」

 ハヤテはKCCをヘッドギアの中から睨むと、子供に目線を戻した。

「お前が必要なくても、俺はお前を死なせるわけにはいかないぜ」
「……」

 ハヤテの右手が動く。電子警棒を放り投げた。
 金属音を立て、コンクリート床を転がっていく。

 KCCはそれを満足そうに目で追うと、武器を失ったハヤテに視線を戻した。

「いいですねー。丸腰って」

 また口笛を吹く。今度はやや違う音色。
 同時に、二体の犬型獣機が咆哮し、その口から電光を発した。

「うああ゛あっ!」

 強烈な電撃を受け、たまらずハヤテは声をあげた。
 二筋の大きな雷光の終端で、ハヤテのスーツ全体が、薄明るい部屋の中で激しく明滅する。

 雷光はやまない。
 高い電圧がスーツとハヤテの体を襲い続ける。

「あ゛あ゛ああああっ――――!」

 すでにダメージの蓄積していたスーツでは、とてもその電撃を吸収しきれていない。
 ハヤテの体は反り、スーツはまるで花火のようにあちらこちらで小爆発を起こし始めた。

「あ゛っあっ、あ゛あっッ! あ゛ッあ゛ッあ゛アァアアアッ――――!!」

 なおも浴びせ続けられる電撃のなか、全身が一瞬ひときわ強い光に包まれる。
 ハヤテは黒と赤の特殊戦闘ボディスーツ姿から、黒のインナーシャツにスパッツという素の姿に変わった。
 変身が解除されたのである。
 ギュッと閉じられた目、開いた口。苦悶の表情が露となった。

 そして、電気エネルギーを全放出したであろう二体の犬型獣機の雷撃がやんだ。

「…………ぁ……」

 もはや体を支えることすらもかなわず、両膝がガクリと折れ、前へと倒れた。

「二匹ともよくやってくれました」

 KCCは満足そうにそう言うと、また口笛を吹く。
 KCCの元へ二体がやってきた。

「とどめはボクがさします。少しこの子を預かっていてください」

 二体の尻尾が伸びる。

「うわっ」

 子供は暴れたが、あっという間に両腕を縛り上げられた。

「大人しくしててくださいね。ヒーロー君が終わったらちゃんと人間で言う『あの世』に行かせて差し上げますから」

 そう言うとKCCは、素の姿で倒れたままのハヤテへと近づいていった。



(続く)
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